平成28年12月14日参議院本会議(吉川沙織)

○吉川沙織君 民進党の吉川沙織です。 私は、ただいま議題となりました伊達忠一参議院議長不信任決議案に対し、会派を代表して、賛成の立場から討論を行います。 最初に申し上げたいのは、昨年九月のことを皆さん覚えておいででしょうか、安保法制採決の際に乱発をされた、本決議案の議事における趣旨説明については一人十五分討論その他の発言時間は一人十分に制限することの動議が与党から今回も提出されたことです。 確かに、我々は野党第一会派であるとはいえ、この議場においてもお分かりのとおり、議員数は少なくなってしまいました。しかしながら、日本国憲法第四十一条、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と定めがあり、これらに基づき国会は多くの権能を有しています。これらの権能行使の基礎となる各議員も多くの権能が与えられ、議員には、議案提出、質疑、討論、表決という議事手続上の基本的機能のほかにも幾つかの権能が認められているのです。 そのうち、この討論については発言権に分類されますが、この議場での発言を始め議員の発言権は最も基本的な権能であるからこそ、先ほどの議院運営委員会の理事会においても発言時間を制限することの動議は出さないでほしい旨、何度も何度も与党に申し上げたのです。多数決原理と同時に、少数派の意見の尊重はあってしかるべきではないでしょうか。 今、日本は重大な岐路に差しかかっています。国家債務は一千兆円を超え、国内総生産の二〇〇%を超えるまでになっており、国の行く末さえ全く不透明で危機的な我が国の財政状況の中、ただひたすらに金融緩和にひた走り、その理論的旗振り役の学者は最近ではその誤りを認めるなど、アベノミクスとやらは破綻状態に陥っており、心ある専門家はハイパーインフレを強く懸念する声を上げていますが、政府は全く聞く耳を持ちません。 数十年前に失敗したレーガノミクスを教科書にしたアベノミクス、そしてバブル景気に浮かれた社会で発想しそうな特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案、いわゆるカジノ法案も、アジア地域では中国経済の失速、過剰投資などでカジノ産業が衰退する中、国民を巻き込んで一体どこへ向かうのでしょうか。 思い出されるのは、今回の特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案に対して、総合保養地域整備法、いわゆるリゾート法です。リゾート法は、地方振興策の手段として当時の政権がリゾート産業に着目して制定したにもかかわらず、同法に基づいて実施されたリゾート地域開発のほとんどは成果を上げることなく破綻し、地域社会に大きな傷痕を残したのです。 現政権は、諸外国で失敗した政策を周回遅れでなぞっているだけです。 競馬、競輪、競艇、パチンコなど我が国のギャンブル、遊技機市場は、その規模では約二十六兆円のギャンブル大国です。カジノの市場規模は世界全体でも約十八兆円とされる中で、日本をこれ以上カジノでどうしようとするおつもりなのでしょうか。 強い日本を取り戻そうとする総理は、アメリカの悪い例をまねして、時代遅れの政策を看板の掛け替えだけで行っているのです。そのお手本のアメリカでは、次期大統領が強いアメリカを目指しているようですが、願わくば、我が国の轍を踏まないことを祈るばかりです。 一方、政府は、各種政府施策を説明する際に安心、安全という言葉をまるで呪文のように理由付けとして乱発しておりますが、国の根幹、国の形を抜本的に揺るがすこと必然のカジノ導入を新たな成長戦略と全く根拠のない理由を喧伝し、日本を安全、安心と正反対の環境にしようとしております。 おもてなしの心で観光大国を目指すという我が国が、カジノで外国人観光客を誘致しようとは何事でしょうか。海外の観光客は、日本らしさを求めて我が国を訪れるのであって、海外発祥のカジノに積極的に行くとはなかなか考えづらいのではないでしょうか。 それとも、日本国民にカジノを奨励し、国の治安を毀損し、国民の体感治安を更に悪化させたいのですか。それとも、国民の所得格差がどんどん開く中で、カジノでもっと貧富の差を拡大しようとするのでしょうか。 国民が一致団結して、将来世代が安心して暮らすことができるよう、今ある財政上の難局を乗り切るための長期的視点に立った政策を考えるべきではないでしょうか。 その上、政府・与党は、国民世論をその都度使い分けており、一回目の消費税率引上げ延期では国民世論を理由とし、カジノ法案については、新聞各紙がこぞってその問題点を数多く指摘する中で、その国民世論を全く無視し、日本社会をカジノやオリンピックに浮かれさせ、厳しい財政状況のことを忘れさせるため、感覚的に麻痺させようとでもするつもりなのでしょうか。 現政権は、破綻状態の危機に瀕する財政事情と全く反する政策ばかり行っています。東京湾では、東京都の築地市場豊洲市場への移転、東京オリンピックパラリンピックに伴う各種施設の新設、カジノ施設やレジャー施設の新設の推進などというのは、バブル時代で財政に余裕があった時代の公共事業乱発、土建国家の復活ではないでしょうか。 九年前の夏、被選挙権を得たばかりの三十歳で本院に議席を預かった私は、就職氷河期世代の一人であり、必死に就職活動をしたのが平成十年、会社員として社会に出たのが平成十一年、バブル経済は既に崩壊した後のことでした。つまり、右肩上がりの日本社会や経済を知らない世代であり、多くの借金を背負わされる世代でもあります。でも、その借金はこれまでの政権が積み重ねてきたのです。その古い時代の財政手段を駆使した財政手法の復活、これが新成長戦略とはあきれたものです。 このような間違った行政運営が行われる中で、行政府をチェックする役割が我々立法府に課された重要な機能であることは論をまちません。その機能を担う組織の長が参議院議長です。それも、我が参議院良識の府です。この現政権を正すのが国会であり、良識ある参議院のあるべき姿です。 ところが、このような重要な時期にある状況において、延長国会に入ってから、しかも、会期末まで残り一週間しかない時期に、与野党の合意を基本とする議員立法でありながら、衆議院内閣委員会で採決が強行され、異常な形で参議院に送付されてきたカジノ法案の審議入りを議長は容認したのです。 私は、議院運営委員会の理事会で、本法律案が議員立法であるにもかかわらず、各会派間で丁寧な合意形成を図ることなく、さらには国家公安委員長の常時出席や連合審査会開催の合意をほごにした上、たった五時間三十三分の質疑のみで衆議院内閣委員会で採決が強行され、異常な形で参議院に送付されたカジノ法案の拙速な審議入りは断じて認められないと一貫して強く反対してきました。 そもそも、現在の政権並びに議会運営は、民主主義イコール多数決という間違った考え方に基づいて、数の力で強引に政策を強行しようとしています。これをただし、少数派の意見を十分反映した慎重な審議が行われるよう指導するのが議長のなすべき仕事です。行政府や与党の意に沿うよう議会運営を、そして議事運営を行うことではありません。 もちろん、封建時代から近代国家に至るまで、議会制度の発達の歴史の中において多数決原理が議会制度を支える柱として重要であることは認識しています。しかしながら、多数決原理は、あくまでも相対的なものであり便宜的なものです。したがって、ある国会のあるときにおいて決定されたそのものが正しいかということは、歴史によってしか証明されないのです。 この多数決原理がよく機能するためには、言論の自由の保障、集団のある程度の同質性、集団内の多種多様な利害、主張を統合していくための制度的メカニズム、少数者に決定への参画の自覚を与え、決定受容の心理的準備の機会を与える実質的議論の場、そして決定に対する全構成員の受容が必要です。これらの点を勘案するならば、この多数決原理と同時に少数派の意見の尊重があって初めて議会の公正なる運営がなされると考えます。

○副議長(郡司彰君)  時間が超過をいたしております。簡単に願います。

○吉川沙織君(続)  したがって、選挙のときに多数を取ったならば後は何をやってもよいという多数決原理は、一党独裁であると言わざるを得ません。  良識の府たる参議院を代表する参議院議長の職責としては、少数派の意見を議会の審議にいかにして反映させるかということに重点を置かねばならないにもかかわらず……

○副議長(郡司彰君)  吉川君、簡潔に願います。

○吉川沙織君(続)  少数派の意見を十分に尊重しない議会運営、議事運営となっているのです。 昭和五十二年十一月に参議院改革協議会が初めて設置されてから約四十年。この間、歴代議長の下で参議院改革のためのたゆまぬ努力が続けられ、参議院の在り方に関する諸問題等について

副議長(郡司彰君)  時間が超過をしております。

○吉川沙織君(続)  議会の先人により多くの改革が実施されてきました。多くの参議院改革がなされてきたその理由の一つに、参議院の存在意義が問われた時代があったことは言うまでもありません。 昭和六十年一月二十一日、「各会派代表者懇談会における議長所見と提案」の中で、「参議院は、憲法上認められた二院制の下において、衆議院の行き過ぎを抑制し、また、衆議院の機能を補完することにより、独自性を発揮し、」……

○副議長(郡司彰君)  吉川君、時間が超過をいたしております。簡単に願います。

○吉川沙織君(続)  「国政の運営を慎重かつ健全ならしめ、民主主義国家の発展に寄与し、国民の負託に応える使命をもつものであることは申すまでもありません。」、そして「議会制民主主義の下において民主主義政治を立派に発展させるためには、憲法に規定されているとおりに二院制の長所を伸ばすことが肝要であり、参議院無用論の如きは甚だ遺憾にたえませんが、こうした批判が出ることについては謙虚に反省する必要があるものと考えます。」。(発言する者あり)もう少しで終わります。

○副議長(郡司彰君)  吉川君、時間が超過をしております。

○吉川沙織君(続)  ルソーのように、国民の総意が単一不可分であるとすれば、これを代表すべき議会も単一の議院であるべきだとする一院制の主張が生まれますが、今日でもなお多くの国において二院制が採用されています。二院制の存在意義の論拠は、代表の多様性の確保、議会における慎重審議、二院の間における相互抑制、補完にあると考えます。 旧憲法下においても貴族院衆議院両院は相互牽制が想定されていましたし、また、昭和六十一年三月五日、衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会において、当時の自治大臣も、「本来二院制は、我が国で言えば衆議院参議院、」……

○副議長(郡司彰君)  吉川君、時間が超過をしております。

○吉川沙織君(続)  「両方とも直接選挙になっておりますけれども、お互いの性格や立場上それぞれの観点に立って、特に参議院良識の府と言われておりますが、そういう両者の観点からお互いにチェックし合い、あるいは補完、協力し合うことによって政治の理想により一歩でも近づいていこう、そういう知恵の産物として二院制度をとられたものと思いますし、お互いが機能することによって所期の目的に達することができ、そのように機能してきておると考えております。」。 しかるに、参議院の果たす役割は大きく、そしてまた、参議院の権威を考えたとき、伊達議長の議会運営、議事運営は良識の府たる本院の議長として承服できるものではなく、提出されております伊達忠一議長不信任決議案に対し賛成の意を表し、私の賛成討論といたします。 ありがとうございました。(拍手)