昭和56年4月28日衆議院内閣委員会

○神田委員 いま私間違いまして、大将とか中将とか旧軍のあれで言いましたが、これは将とか将補とかということでございまして、ちょっと資料のとおり読みまして失礼をしました。
 いずれにしましても、イギリスやあるいはアメリカ等に比べますと、やはり相当若い年齢で退官せざるを得ないような状況になっておりますが、これはひとつ今後検討していかなければならない問題だというふうに思っております。今後の検討課題ということで、それぞれの立場で御検討をお願いをしたい、こういうふうに思っております。
 防衛問題でちょっと時間をとりましたが、以上で防衛問題について質問を終わりまして、次に、定年法案に対する質問に移らせていただきます。防衛庁長官、どうぞ御退席ください。
 それでは定年法案について質問を続けます。
 まず最初に、定年法案を提案をされてまいりましたけれども、この定年法案によって、政府としては、どういうふうな財政効果をこれで考えているのか。この法律が成立した場合に、昭和六十年三月三十一日から六十歳定年制が導入されるわけでありますが、これに伴って定年退職の対象となる公務員の数は一体どのぐらいなのか、昭和六十年度の場合はどのぐらいで、その後毎年推計何名ぐらいがこの対象になるのでありましょうか。

○斧政府委員 お答えいたします。
 昭和六十年三月三十一日にどれくらいの職員が定年退職することになるかという推計はなかなかむずかしいのでございますが、いま審議されております定年法が通りましたら職員にどういう影響が出るのか、それから人事院総理府、各省、これは定年制の円滑な実施に向けていろいろ準備をする、こういうことになりますので、その影響がどういうふうにあらわれるかということでなかなかむずかしいのですが、非常にラフな推計で申し上げますと、現在五十五歳以上の職員が、給与法の適用職員で言いますと、約五万四千人在職しております。一方、五十四年度中に五十五歳以上で退職しております職員が八千五百人ばかりおります。その関係で、六十年の三月三十一日にどういう数字になるであろうかということを推計してみますと、大体、五十五年の三月三十一日に在職しております六十歳以上の職員が一万四千人ですが、この程度の数字になるのではないかというふうに考えられます。ただ、この一万四千人の中には、大学の教官でありますとか医師でありますとかという職員も入っておりますので、この方たちは六十歳以上の定年になりますので、若干数字は減ると思います。
 それから、六十一年以後どういうことになるであろうかということなんですが、これも大変推計はむずかしいのですが、国家公務員給与の実態調査で出ております数字でいきますと、五十五年一月十五日現在で調べました国家公務員給与実態調査によりますと、大体毎年一万四千から五千人ぐらいが六十一年以降六十歳に達するというような、ごく大ざっぱでございますが、そんな感じでございます。

○神田委員 一方現在国家公務員には、民間の定年にかわるものとして勧奨退職制度があるわけですね。現在、各省庁の平均勧奨退職年齢は五十八・六歳であります。六十歳定年制が導入された場合、六十歳まで雇用の延長となるわけでありますが、これによって雇用の延長の対象となる公務員の数はどのくらいになるのでありましょうか。

○斧政府委員 これもなかなか確たる数字は出てまいりませんのですが、六十歳の定年になりますというと、現在五十九歳以下でもって勧奨基準年齢を設けております省庁の職員について在職期間が延びるという現象があらわれてくるのではないかと思いますが、これは課長補佐クラスで五十九歳以下の勧奨基準年齢を持っております省が十四機関、課長クラス以上で十七機関ございます。この人たちが今後どういう退職の過程を示すのかよくわかりませんが、大体いま任用状況調査に毎年あらわれております数字で言いますと、五十五歳から五十九歳までの間に退職する職員が四千名程度おります。いま御質問のどれくらいの人間が在職期間が延びるのであろうか。この四千名の人がいまは五十五歳から五十九歳まででやめておるわけですが、六十歳定年になりましたときに、もしそのまま居残るという想定をいたしますと、大体概数四千名程度であろうということでございます。

○神田委員 定年制の導入の理由の一つが財政上の問題だ、こういうことでありましたが、定年によって退職する者の数と逆に雇用の延長となる者の数とを比較考量した場合に、財政上のバランスというのはどういうふうになるのだろうか。いまお話を聞きますと、それぞれ概算で数字が出ておりますけれども、定年制を施行したことによって人件費はどのぐらい節約されるというふうに考えられているのか、その辺はいかがでありますか。

○山地政府委員 この定年制の実施が六十年から始まるわけでございますけれども、その間経過期間がございます。その間に私どもといたしましては、過渡的な処置ということを多角的にいろいろとやらなければいけないだろうと考えております。したがって、そういったことがどのように推移していくかということが一つ問題があろうかと思います。
 それから、いま人事院の方からお答えございましたように、本来ならば勧奨退職で退職された方が残るかもしれない。これはいまお答えいただいたようにかなり不明確なことでございます。そこで、そういったことがどういうふうに起こるかという予測が非常にむずかしいので、バランスシートの話になりますと非常に計算がしにくいわけでございますけれども、いずれにいたしましても、新しく私どもの方が六十年に定年制を施行したいということは、財政問題としてまずはとらえておりませんで、行政改革としてこれをやりたい。公務の能率を遂行するためには、定年制を施行することが適当であるという着眼点に立ってこれをやっているわけでございますが、しかし、それが財政上どのようなメリットがあるかというのは、片方でやはり考えておかなければいけないことだと思うわけでございます。
 そこで、六十年まであるいは六十年からしばらくたったところ、つまり短期的なところではどうなるかということは、かなり計算が予測の問題に絡んでくるので明確には出てこない。しかし、言えることは、長期的には退職が円滑に行われるということになりますと、長期在職している方というのは、新規採用の方に比べると三倍の給料をもらっているということになりますので、その差額というものは、まずは浮いてくる。ところが退職が進めば年金の支払いがふえるということで、年金部分というのが財政支出としてふえる、そういうところが出ようかと思います。しかし、長期的には、そういうことで考えれば財政的にメリットというものはあるというふうに考えております。

○神田委員 次に、三公社五現業の場合についてお尋ねしますが、まず五現業の職員につきましては、公労法によりまして労働条件について団体交渉権が認められているわけであります。しかし、今回の改正によって、法律で原則的な定年年齢六十歳を法定化していることは、第一番に五現業職員に認められている団体交渉権の侵害とならないのかどうか、さらにはこのことは公労法に抵触をしないのか、この点はどういう見解でございますか。

○山地政府委員 いまの先生の御指摘は、公労法八条で団体交渉の対象というところに勤務条件が入っておりまして、そこで休職、免職その他のことが団体交渉の対象になるということになっているわけでございますけれども、現行の公労法の四十条で公務員法の適用除外ということが書いてあるわけでございますが、その各条を見ますと、免職の規定あるいは公務員法の七十五条の身分保障の規定等は除外されていないわけでございます。七十七条というところは公労法で適用除外になっているわけでございますけれども、たとえば意に反する免職の規定というのが七十八条にあるわけでございまして、この規定はそのまま適用されているわけでございます。したがいまして、現在の公労法の精神というのを人事院規則で決めるということにつきましては、かなり広範囲に適用除外をしておるわけでございますが、こういった身分関係の変動、つまり分限にかかわる点につきましては、適用除外をしてないというのが公労法と国家公務員法の関係であるわけでございます。公労法の方で認めている団体交渉権の対象というのは、法律で身分保障をしている部分については適用になってない。つまり身分保障ということは、法律の規定で定められているというのが現状であるわけでございます。
 そこで、今度の定年制ということの導入をいたします場合には、やはり法律で決めていく必要がある。法律で定めたことの範囲内で団体交渉を行うということになるのが筋ではないか、これが私どもの考えでございまして、その考えに従いまして、五現業には団体協約権があるというたてまえを堅持いたしまして、本来ならば任命権者あるいは人事院規則で決めるというようなことを主務大臣に大幅に委任しております。たとえば六十歳定年でやめるという場合のいつやめたらいいのかというようなこと、あるいは勤務の延長をする場合にどういう方を延長したらいいかというようなこと、あるいは特例定年で六十歳から六十五歳までの間にどういう人が延長といいますか、特例定年を定めるかというようなことにつきましては、これは主務大臣と組合との間でいろいろ御協議いただいて決めていくということになっているわけでございます。

○神田委員 法定化事項については団体交渉の交渉事項としないということであるならば、この法定化すべき事項と団体交渉で決める事項について、その基準は一体どこにあるのか、現在ではどういうふうになっているのか。いままで団体交渉に任せられている事項であっても、これを法定化してしまえば、その対象から外されて、団体交渉の範囲がそれだけ狭められてしまうわけでありますから、労働者の労働基本権のあり方からすれば、団体交渉の範囲を拡大するよう努力をしていくというのがわれわれの立場でありますが、この定年の法定化は、こういうことから言いますと逆行しているような形になる。したがいまして、こういうことについてはどういうふうに御見解をお持ちになりましょうか。

○山地政府委員 ただいま申し上げましたとおり、国家公務員法身分保障がございまして、たとえば意に反する免職をするときの事由というのが国家公務員法の七十八条に書いてあるわけでございます。ところが公労法の八条で、団体協約の締結ができるようになっているところにも免職ということが書いてあるわけでございますが、これらの関係につきましては、免職の事由は国家公務員法で決めてあって、それの基準について八条の方で団体協約の締結がされるという関係になっているわけでございます。したがって、それではいままで団体交渉をしたときに免職のことについてどういう議論ができたかというと、いまの八条に書いてある基準についてはできたわけでございますけれども、その基準ということになりますと、たとえば勧奨退職のことを決めたということは、これは合意があってそのときに勧奨退職をするわけでございます。勧奨退職というのは法的な拘束力はないわけでございますから、国家公務員法の意に反してやめさせるという行為ではない、本人が合意をしてやめることでございます。そういったことは団体交渉で対象になっていたわけでございます。それでは、従来はそういった団体協約で定年制をしくことができたかというと、これは本人の意に反して免職できない、あるいは任命権者は法律に従ってしか免職することはできないという規定から考えて、そういったことの協定はできなかったわけでございます。
 そこで、今回定年制を導入するという場合に、身分保障について変動はございますけれども、従来の団体交渉権ということからはやってなかったことであるということになろうかと思います。したがって、この点につきましては、狭めるということではないと私どもは理解しております。

○神田委員 定年制の導入は、現業職員の基本的な労働条件の問題であるわけでありますが、これを法定化するに当たっては当然労使の十分な話し合いがなされなければならないと考えております。今回の改正に当たって、そのような交渉は持たれたのでありましょうか、その辺はどうでございますか。

○山地政府委員 いま申し上げましたとおり、団体交渉によって決めるべきことではないというのが定年制度の根本であるわけでございまして、これは法律で決めなければ定年制の導入ができない、そこで法律で決めるためにはどうやって決めるかという話になるわけでございます。もちろん政府としてそういったことを提案する場合に、職員団体の意向を十分聴取することが必要であることは言うまでもございませんが、そのために、私どもといたしましては、まず第一にそういった労働三権のために設けました人事院というところで意見を聴取し、そこで一年半の慎重な御検討を得た結果、この法案を作成したわけでございます。その過程においても職員団体の意見は聴取してきたわけでございまして、今後ともそういった職員団体への接触ということを十分にやっていきたい、かように考えております。

○神田委員 次に、指定職の適用の問題について御質問申し上げます。
 指定職の適用職員は現在千五百人弱いるわけでございますが、その中で現在定年が定められている者の数、割合はどういうふうになっておりましょうか。

○斧政府委員 指定職は先生おっしゃいますとおり約千五百名でございます。そのうち定年制の定められております職員は、国立大学と国立短期大学の教官でございます。大学の学長及び教授の中に指定職の方がいらっしゃるわけですが、約六百六十名ばかりいらっしゃいます。

○神田委員 指定職の高齢化比率が非常に高いわけでありますが、五十四年現在で六十歳以上の者の占める割合は約四〇・一%。定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、さらには教育公務員におきましては国立大学九十三大学の教員の中から何名か出ているわけでありますが、これらについてはどういうふうにお考えになりますか。

○斧政府委員 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。

○神田委員 次に、定年と勧奨退職との関係について御質問申し上げます。
 まず、定年制が導入されることになりますが、仮にそういうふうになった場合には、勧奨退職というのはなくなるのでありましょうか。

○斧政府委員 定年制が実施されますと、現在各省で勧奨基準年齢というものを定めまして、集団的に職員の退職管理を行っておるわけでありますが、こういう形の退職勧奨はなくなるということでございます。
 ただ、一般の職員の方と幹部の職員の方を分けて考えますと、一般の職員の方につきましては、定年制実施後早くに勧奨はなくなると思いますが、幹部の職員につきましては、組織の実態に応じまして、従来からの人事計画の引き続きということもございますので、なおしばらくは残るのではないかと思っております。

○神田委員 勧奨退職が大体そういうふうな形で残るというわけでありますが、通称エリート公務員の場合、五十二歳から三歳で退職する例が大変多いと聞いております。勧奨退職を残すとすれば、これらエリート公務員の早期退職制はそのまま継続して実行されていくのかどうか、この辺はいかがでありますか。

○山地政府委員 いま申し上げましたとおり、定年制というのは、集団的な退職勧奨制度のために設けられたわけでございますが、御承知のように、公務員組織というものを維持していくためには、ある種の秩序が必要であろうかと思うわけでございますが、特に組織の中核である幹部の職員につきまして、新陳代謝を早めて組織の能率的な運営を図ることは、今後とも必要でないかと思うわけでございまして、そのためには定年まで待つというよりも、その以前において、もちろん本人の承諾ということが必要であるわけでございますけれども、個別的な退職管理としての勧奨退職は今後とも続けていかざるを得ないのじゃないか、かように考えておるわけでございます。

○神田委員 この問題はいわゆる天下りの問題とも関連して、天下りの弊害を是正するという意味からも、まだどんどん働ける若い公務員を五十二、三歳で勧奨退職させてしまう、早期退職させてしまう、こういう方向はちょっと考えた方がいいと思うのでありますが、その辺はどうでありますか。

○藤井政府委員 いま御指摘の点は同感の面が非常に多いわけでございます。いまもお話しのありましたような、特に現在まで行われております勧奨退職の中で、非常に若い方でいろいろな事情が特殊的にあるわけですが、そういう方々もおられたわけでありますが、六十歳定年制ということになりますれば、一般職員は無論のことでございますが、そうでない、要するに幹部職員の方々でもそういう一般の風潮を背景にいたしまして、おのずからその分が延びていくという傾向は顕著に出てまいるのではないか。やはりそれは定年制の一つの効果でもあろうかと思うのであります。
 それと、特に幹部職員等については、いま御指摘になりましたような巷間いろいろ御批判をいただいております天下りの問題とも関連なしとは申せません。この点については、法律の規定もございますし、人事院といたしまして、内容について非常に精細に審査をいたしまして、弊害の出ないように十二分の努力はいたしておるのですが、各省庁の都合で幹部職員に後進に道を開いていただくという必要が生じました場合に、若い人であるだけに、そのまま、あとはおまえが勝手にやれと言うわけにはまいりますまい。そういうようなことから、いろいろな点で行く先をお世話するということが通例行われているわけでありまして、そういうことがいわゆる天下りの数をふやさせ、それをめぐっての問題点が指摘される契機にもなるという点があったことは事実だろうと思います。そういう点につきましては、この定年制が施行されるということになりますれば、そのケースが絶無というわけではありませんが、おのずから勧奨の年齢というものも延びていくというようなことと並行いたしまして、天下り関係等につきましても漸次落ちつきを見せてくるということは十分考えられるところではないかというふうに思います。