安全保障の環境の変化とは

そもそも今回の安全法制は米国からの要請によるものであるというのは周知の事実で自衛隊と米軍との共同訓練ではすでにそれを先取りしたものが行われている。しかし建前として国会での審議においてはたとえば


安倍内閣総理大臣 まさに今、高村委員から、抑止力とは何かということについて本質的な議論をしていただいた、このように思います。
 まさに抑止力とは、日本に対して攻撃をする、あるいは日本を侵略しようとすれば相当の打撃をこうむらなければならないということを覚悟しなければいけない、となれば、それはやめておこうということになるわけであります。すきがないか、しかし、すきがないということになれば、それはやはりやめておこう、それは外交的に今後解決していこうということになってくるわけでありまして、相手にそういう気を起こさせない、これこそ未然に防ぐ抑止力になっていくわけであります。
 先ほど申し上げました三つの法の支配の原則に立ち戻る、どの国も立ち戻っていく、こういう常識を多くの国々と共有する上にも、我が国もしっかりと抑止力、未然に防ぐ力を持っていく必要があるんだろう、このように思います。
 先ほど、刀は抜かないものだ、刀を持っていることによってこれは抑止力になる、こういうお話もいただきました。しかし、その刀が決してさびてはいないし、この刀が一旦抜かれればこれは大変だということを相手が認識していれば、結果として刀をさやから抜くことはないということになるわけでございます。
 そのための、まさに今回の全体的な法制であるわけでございまして、国民の命と平和な暮らしを守るための、グレーゾーンから集団的自衛権の一部容認に至るまでの切れ目のない法制を進めていく。起こってから考えればいいではないかという人がいますが、それは、まさに安全保障の議論においては、起こらないようにしていく、未然に防ぐことに力を傾注していくのは国民の命を守る責任ある立場としては当然のことなんだろう、こう思うわけであります。
 その中において、日本が攻撃を受ければ、米軍は日本を防衛するために力を尽くしてくれるわけであります。そして、安保条約の義務を全うするため、日本近海で適時適切に警戒監視の任務に当たっています。
 しかし、現在の法制のもとでは、私たちのため、その任務に当たる米軍が攻撃を受けても、私たち自身に攻撃が発生していなければ、攻撃がなければ何もできない、何もしないということであります。果たしてこれでいいのであろうか、果たしてこれで本当に日米で共同対処して日本を常に守っていることができる、守っているんだということが確立されるかということであります。
 少なくとも、この中において、日米安保条約がしっかりと機能しているんだと思われる、海外からそう思われるようなメッセージをしっかりと出していくことが必要であろう、こう思うわけであります。
 今回の法制はまさにクリアなメッセージになっている、このように思うところでございます。

安倍内閣総理大臣 この二、三十年の間、安全保障環境は大きく変化をしてきているわけであります。特に、アジア太平洋地域をめぐる安全保障環境は変化をしています。
 例えば、自衛隊スクランブル、防空識別圏に通告なしで入ってくる外国の爆撃機やあるいは戦闘機等々、外国というか国籍不明機等も含めますが、に対するスクランブルは十年間で七倍になっているわけでございます。
 そして、北朝鮮弾道ミサイルを数百発持っていると推定されるわけでありまして、それに搭載する核の技術も向上させているわけであります。
 また、中国の台頭、そして東シナ海南シナ海における活動、さらにはサイバーあるいはテロ、過激主義、そうしたものはまさに国境を越えてやってくるわけでありまして、もはや一国のみで自国を守ることができる時代ではないわけであります。
 だからこそ、日本の安全保障政策の基軸であります日米同盟をより強固にしていく、国際社会との協力を一層深めていくことが求められている、このように思います。

というような理由が挙げられている。一つはアメリカからの求めに応じて共同行動を広げていくことが公然と語られている。もともとは日本は武力行使について他国との一体化はできないということになっていて非常に厳しく制限をかけていたが、今回はアメリカからのニーズがあるからと武力行使の範囲を狭めていろいろなことが許されるような法制となっている。主権国家として非常に主体性の無い話である。
また日本の周辺での安全保障環境が大きく変わったということが挙げられている。たとえば航空自衛隊によるスクランブルは「十年間で七倍になっている」と言われている。



たしかに10年前の7倍にはなっているが、冷戦時代に比べると多くなったわけではない。たまたま10年前は一番少ない時期だったということで数だけで議論するのはほとんど無意味と言って良い。「北朝鮮弾道ミサイルを数百発持っていると推定される」ということについてもやはり冷戦時代のソ連の核ミサイルが日本の米軍基地を射程に入れておなかったという保障はない。ただソ連には日本は全く手が出せなかったが、その後イージス艦などを導入したこともあって北朝鮮のミサイルであれば日本もミサイル防衛の一部を担っているいうことはその当時とは異なっている。しかし専守防衛ということであれば現行のシステムに大きな欠陥がある訳でもなく、また自衛隊の海外での活動を広げていくことが日本の国土を守ることになるということの理由となるのは考えにくい。
そういう点でも安保法制を今この時期に無理に通すことの必然性はないと言える。