自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議


○議長(河井彌八君) 日程第三、自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議案(鶴見祐輔君外八名発議)
 本案は、発議者から、委員会審査省略の要求書が提出されております。発議者要求の通り、委員会の審査を省略し、直ちに本案の審議に入ることに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河井彌八君) 御異議ないと認めます。よつて本案を議題といたします。これより発議者に対し、趣旨説明の発言を許します。鶴見祐輔君。
   〔鶴見祐輔君登壇、拍手]
鶴見祐輔君 私は、只今議題となつた自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議案について、その趣旨説明をいたさんとするものであります。先ず決議案文を朗読いたします。
   自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議
  本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。
  右決議する。(拍手)
 この趣旨は、すでに三月八日、日米相互防衛協定調印の際、岡崎外務大臣とアリソン米国大使との挨拶のうちに述べられていることでありますが、我我は国民の名において、本院により改めてこれを確認せんと欲するものであります。
 只今本院を通過成立をいたしました防衛二法案は、委員長の報告によりましても、誠に重要なる内容を有するものであります。先般成立いたしましたMSA協定と相待つて、戦後日本に新らしき方向転換を示唆するがごとき要素を含んでおるのであります。自衛隊法により生まれんとする三部隊、殊に陸上自衛隊は、その名称の如何に呼ばれましようとも、その数量と装備、武器に至つては、満州事件前の我が国の陸軍に次第に近似するがごとき実力を備えんといたしております。又、その任務については、同法第三条におきまして、「直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛す」となし、その方法としては、第八十八条におきまして、「必要な武力を行使する」と明記してあります。而もこの自衛隊の数量は、米国駐留軍の漸減に応じ漸増せんとするのでありますから、戦力という文字の解釈如何にかかわらず、常識的用語としての軍隊の内容に近づきつつあることは、否みがたいのであります。故に今日の程度においても、すでに憲法第九条の明文に違反するとの議論が生じております。いわんやこれが更に数量的に増加せられ、又その使用の範囲が拡大せられるといたしますならば、我が国が再び、戦前のごとき武装国家となる危険すら全然ないとは申せないのであります。故に自衛隊出発の初めに当り、その内容と使途を慎重に検討して、我々が過去において犯したるごとき過ちを繰返さないようにすることは国民に対し、我々の担う厳粛なる義務であると思うのであります。
 その第一は、自衛隊を飽くまでも厳重なる憲法の枠の中に置くことであります。即ち世界に特異なる憲法を有する日本の自衛権は、世界の他の国々と異なる自衛力しか持てないということであります。
 その第二は、すべての法律と制度とは、その基礎をなす国民思想と国民感情によつて支えられて初めて有効であります。そして今日の日本国民感情の特色は、熾烈なる平和愛好精神であります。従来好戦国民として世界から非難をこうむつておる日本国民は、今や世界においても稀なる平和愛好国民となつておるのであります。それは日本国民が、最近九年間に実に深刻な経験をいたしたからであります。その一つは敗戦であります。これがどのように日本国民の思想に影響を与えたかは申述べる必要はありません。この悲痛な幻滅が戦争に対する日本国民の考え方を激変させたのであります。併し、日本の国民思想に深刻な影響を与えたいま一つの事実は、戦争後における勝利者と敗北者との関係であります。敗戦後の日本国民は、深い反省をいたしました。そうして謙虚な気持で新らしい出発をしようと思つていた。併し我々の期待を裏切るような出来事が国の中においても、海の外においても起つたのであります。我々が戦前に抱いたと同じような考えが、再び世界に拾頭せんとすることを我々は眺めたのであります。そして我々は無条件にそういう道ずれにはなりたくないと思うようになつたのであります。この二つの深刻な幻滅の結果として、日本民族の尊き体験として学びとりましたことは、戦争は何ものをも解決しないということであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)殊に原爆と水爆との時代において、戦争は時代錯誤であるということであります。(「そうだ、その通り」と呼ぶ者あり拍手)この惨禍をこうむつた唯一の国民として日本はこれを世界に向つて高唱する資格を持つておるのであります。然るに戦後九年にして、世界は再び大戦争の危険にさらされんとしておる。殊に東洋においてその危険が横わつておるのであります。そのときに日本に、自衛隊が誕生したのであります。故に我々はこの自衛隊の意義を明白に規正しておくことが特に必要であると思うのであります。思うに自衛隊は現在の世界情勢に対応するための時的な応急手段であります。若し国際情勢が今日のごとく二大陣営に分れて緊迫していなかつたならば、この程度の自衛隊をも必要としなかつた筈であります。七年前我々は、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して、みずから進んで戦争を放棄したのであります。故に今日創設せられんとする自衛隊は、飽くまでも日本の国内秩序を守るためのものであつて、日本の平和を守ることによつて東洋の平和維持に貢献し、かくしてより高度なる人類的大社会的組織の完成を期待しつつ一つの過渡的役割を果さんとするものであります。それは決して国際戦争に使用さるべき性質のものではありません。この日本国民の平和に対する希求は外国の指導に原因するものでもなく、又一時の流行でもありません。あの戦後の深刻なる幻滅に刺激せられて、国民の中に起つた一つの精神革命の結果であります。この九年間に我々は過去の国家至上主義の思想から解放されて、人間尊重の考え方に転向したのであります。殊にそれは若き世代と婦人との間に力強く成熟しつつある思想であります。この個人を尊ぶという考え方は、民主主義の基底であり、それは世界平和の思想に連なるものであり、この国民感情憲法第九条の明文と相待つて、自衛隊の行動を制約すると思うのであります。然るにこの自衛隊という文字の解釈について、政府の答弁は区区であつて、必ずしも一致しておりません。この間、果して思想の統一があるか、疑いなきを得ないのであります。その最も顕著なるものは、海外出動可否の点であります。何ものが自衛戦争であり、何ものが侵略戦争であつたかということは、結局水掛論であつて、歴史上判明いたしません。故に我が国のごとき憲法を有する国におきましては、これを厳格に具体的に一定しておく必要が痛切であると思うのであります。自衛とは、我が国が不当に侵略された場合に行う正当防衛行為であつて、それは我が国土を守るという具体的な場合に限るべきものであります。幸い我が国は島国でありますから、国土の意味は、誠に明瞭であります。故に我が国の場合には、自衛とは海外に出動しないということでなければなりません。如何なる場合においても、一度この限界を越えると、際限もなく遠い外国に出動することになることは、先般の太平洋戦争の経験で明白であります。それは窮窟であつても、不便であつても、憲法第九条の存する限り、この制限は破つてはならないのであります。外国においては、過去の日本の影像が深く滲み込んでいるために、今日の日本の戦闘力を過大評価して、これを恐るる向きもあり、又反対に、これを利用せんとする向きも絶無であるとは申せないと思うのであります。さような場合に、条約並びに憲法の明文が拡張解釈されることは、誠に危険なことであります。故にその危険を一掃する上からいつても、海外に出動せずということを、国民の総意として表明しておくことは、日本国民を守り、日本の民主主義を守るゆえんであると思うのであります。
 何とぞ満場の御賛同によつて、本決議案の可決せられんことを願う次第であります。(拍手)