自衛権発動の三要件


○大久保委員 ただいまの団体旅行の場合を例にとります。相手の国の商船が花見旅行と称して敵性ある人間を積んでやつて来ておる。それがかりに日本海を渡つておる、こういう場合に海上自衛隊は哨戒をしておつて、その的確なる情報に基いておる場合においてその商船を捜査することはできませんか。
○佐藤(達)政府委員 私どもの考えておるいわゆる自衛行動と申しますか、自衛権の限界というものにつきましては、たびたび述べておりますように、急迫不正の侵害、すなわち現実的な侵害があることそれを排除するために他に手段がないということと、しかして必要最小限度それを防禦するために必要な方法をとるという、三つの原則を厳格なる自衛権の行使の条件と考えておるわけであります。その方の基準から照し合せて今のお尋ねの場合を考えてみますと、その場合にただちに実力行動がとれるという結論にはなりにくいように考えます。

○黒柳明君 私は、公明党を代表しまして、防衛二法案に対し、総理、また関係大臣に質問したいと思います。
 午前中も指摘がありましたように、本来この審議は、委員会において審議を尽くされるべき性質のものであります。本来ならば、私と総理がこう面と向かって対陣して、さながら厳流島の武蔵、小次郎の一騎打ちを見るごとく、防衛論争で火花を散らす、これが本来の私のこれから質問する趣旨であります。残念ながら、この本会議で一方通行の質問をせざるを得ない、こういうわけでありますが、ひとつ総理も、私、本会議で総理とじっくり、委員会で総理とじっくり質問しているようなつもりでこまかい質問をしたいと思いますので、その点、御留意いただきたいと思います。
 本防衛二法案は、昭和四十六年、四十七年、過去二度も廃案のうき目を見ている事実は、一体何を物語っているのでしょうか。一国の防衛に関して、四次防、五次防と、とめどない政府の詭弁とごまかしによる法の拡大解釈により、軍隊としての自衛隊及び防衛力増強計画等の既成事実をつくり、その正当性を一方的に国民に押しつけるなどは、まさに、独裁政権による国民不在の防衛政策であると断ぜざるを得ないのであります。総理、そして各大臣は、国民がいま何を政府に期待しているのか、御存じでしょうか。歴代内閣の失政による住宅難、物価高、交通問題、公害、社会保障の立ちおくれ等、国民は一日も早い内政問題の解決を待っているのであります。それにもかかわらず、防衛予算の先取りを行なうなど、国民無視もはなはだしい、まことに嘆かわしい事態であります。本来ならば、先ほど申しましたように、本法案は委員会において徹底した審議を尽くすべきであります。しかし、きょうは残念ながら総理と同方向を――仲がよくて同方向を向いているわけじゃありません。同一線上で質問しなければならない。しかし、私はここに七十五のこまかい質問を用意しました。政府の答弁は、国民の納得のいくように、懇切丁寧に、かつまた具体的な誠意のある答弁をまずお願いして、私の質問に入りたいと思います。
 まず、自衛隊の防衛出動、治安出動、災害出動等についてお尋ねいたしたいと思います。
 一九六九年のいわゆる佐藤・ニクソン共同声明において、台湾、朝鮮の平和と安全はわが国の平和と安全にとって不可分のものであるとし、それ以後、たびたび国会においてこのことは確認されておりますが、これは、台湾、朝鮮地域において紛争が発生した場合に、自衛隊の出動もあるということを意味するものかどうか、まずお尋ねいたしたい。また、かつて法制局長官は、朝鮮で紛争が起きた場合、在留日本人の生命財産の保護のみを目的として自衛隊が出動する場合、相手国すなわち朝鮮側政府の要請がありさえすれば問題ないとの見解を披瀝していますが、それでは、万が一、朝鮮半島において不幸な事態が発生した際には、日本の権益保護という意味も兼ねて自衛隊の出動は可能と考えられるのかどうか、お尋ねいたします。
 また、自衛隊の防衛出動に関しては、自衛隊法七十六条で規定されております。そして同条三項では、防衛出動を規制する規定があります。この七十六条第三項と日米安保条約第五条の関係について、政府はどのようにお考えになっているのか。すなわち、自衛隊法第七十六条第三項は、安保条約第五条の上位規範と考えられるべきではないでしょうか。安保条約を優先するならば、当然安保の存在によって、平和日本が欲せざる戦争に巻き込まれることになり、わが党がかねてから懸念していたことが現実のものになると思うのでありますが、政府はどのような見解をとっているかお尋ねいたします。
 また、第四次防計画には「防衛の構想」という項があります。その中にはこううたわれております。「万一、侵略が発生した場合には、間接侵略および小規模の直接侵略に対してはわが国が独力で、それ以上の規模の武力侵略に対しては米国の協力を得て、これを排除する」旨が述べられております。そこで、ここにいう間接侵略とは、一体いかなる状態をいうのか。また、どういう角度からこれを判断するのか。政府のいう間接侵略の具体的な内容を、その規模、質など、基準もあわせて御説明願いたいと思います。
 次に、間接侵略と治安出動をしなければならないような状態とでは、どう違うのか。間接侵略に関して自衛隊が出動するような事態においては、防衛出動という名目のもとに出動するのかどうかもあわせて明らかにしていただきたいと思います。
 さらに、自衛隊法におきましては、自衛隊の任務として防衛出動、災害出動、そして治安出動等が規定されているのでありますが、自衛隊が治安出動をするような事態はどのような場合なのか。これもまたその基準を明確にして御説明いただきたいと思います。
 さらに、そのような事態においては、警察との関連、指揮系統はどうなるのか。その際の自衛隊の装備はどういうことになるのか、具体的に示していただきたいと思います。
 また、自衛隊が災害出動以外、すなわち防衛出動や治安出動の場合は、いわば非常時というべきときであります。その際、非常時立法というような点はどうなるのでしょうか。自衛隊法でこれらの任務がはっきりしている以上、当然こうした事態も考えられると思うのでありますが、伺っておきたいと思います。
 さらに、自衛隊法第七十八条、「命令による治安出動」についての第一項では、「間接侵略その他の緊急事態」ということが書かれているのでありますが、「その他の緊急事態」というのはどのような状態をさすのか、お尋ねいたします。
 これまでの世論調査によりますと、国民は自衛隊の災害出動を高く、ある意味では評価しております。ところが最近では、災害出動等に名をかりて防衛訓練を行ない、国民のひんしゅくを買っている面もあり、阿賀野川における渡河訓練はそのよい一例であります。災害訓練を名目とした軍事訓練は、当然国民の目をごまかすものといわざるを得ないのであります。災害訓練と軍事訓練の関係においては明確な一線をつけるべきであると思いますが、この点どうお考えになっているか明らかにしていただきたい。
 また政府は、自衛隊地震災害時における実際の行動計画を国会に提出するといっておりますが、その時期はいつごろになるのか、あわせて承っておきたいと思います。
 次に、防衛計画についてお尋ねいたします。
 三次防の大綱にはこのように述べられております。「有事の際すみやかに事態に対処し、行動能力を継続的に維持しうるよう弾薬の確保等後方体制の充実を図る。」こうであります。これは有事即応体制をとっていることをうたっておりますが、四次防においてもこの体制を維持していくことには変わりないのか、お伺いいたします。
 また、四次防計画の中には、「小規模の直接侵略」ということで、これに対しては、先ほども申しましたように、独力で対処すると、こうなっておりますが、「小規模の直接侵略」とはどの程度の内容、規模を想定しているのか。さらには、このような直接侵略に対して、現在の自衛隊はどの程度に対応できることを目標にしているのか、お尋ねいたします。たとえば、ガソリン、弾薬、食糧等については、現時点においては何日間たえ得るだけのものがあるのかということも、あわせてお答えいただきたいと思います。
 次に、前佐藤内閣は、三次防段階におきまして、自衛隊を「抑止力として有効な防衛力」、こういう目標に沿って強化拡充してきたことは事実でありますが、政府は、現在の自衛隊では、侵略に対して抑止力どころか、自衛の力にもなり得ないという発言を行なっております。それでは三次防で言った目標とは矛盾があると思いますが、いかがでしょうか。また、この抑止力について政府はどのような見解をお持ちになっているのか、明快に御答弁をいただきたいと思います。
 また、従来政府は、通常兵器による局地戦に対処するということを明言しております。これは四次防計画中の、いま申しました「小規模の直接侵略」これと異なるものか、あるいは同意義のものか。もし異なるものであれば、その差異はどのようなものかを明らかにしていただきたいと思います。
 また、政府は、昨年十月、四次防を決定しましたが、今後将来の防衛計画についてどのような考えを持っているのか、明らかにしていただきたい。たとえば五次防、六次防についてはどのように考えているのか、また、欠員のはなはだしい自衛隊員の定員増については、今後どのような構想を持っているか等について御説明いただきたいと思います。
 特に、自衛官の募集が限界を迎えている今日、残された最後の手段は徴兵制以外にはないということもささやかれていることは事実であります。かつて法制局長官は、徴兵制について、「平時に国民を強制的に徴し、軍隊に編成して訓練し、戦時に備えるものが徴兵制であるとすれば、憲法の許容するところではない」としております。このことは、逆に有事徴兵制は違憲でないということになるのではないでしょうか。政府の徴兵制に対する見解を承りたいと思います。
 次に、沖繩自衛隊の実態、また、自衛隊の余剰兵器の問題についてお尋ねいたします。
 現在、沖繩に派遣されている自衛隊の実態について、隊員数、装備などについて、陸・海・空別に明らかにしていただきたい。さらに、沖繩への自衛隊の今後の増加計画についても、あわせて具体的に御答弁をお願いいたします。
 次に、自衛官の充足問題について、現在の充足状況を陸・海・空に分けて説明していただきたい。今日の状況は、自衛官の充足はきわめて困難であると聞いているのでありますが、これに対応する具体的な対策をお述べいただきたいと思います。先ほど長官は、このことは頭が痛い、こうおっしゃいまして、給与待遇面での改善と、こうおっしゃいましたが、根本的には、青年の愛国心をいまの自衛隊に託する、これは非常に無理である。そういう事態が自衛隊である。ここに充足率が非常に問題になる点があると思います。給与面あるいは待遇面での改善だけで、はたして長期的な、いわゆる政府のことばをかりると、国を守る自衛隊たり得るかどうか、私は疑問であると思います。また、現在の予備自衛官の実数はどのぐらいになっているのか。この予備自衛官の活用法、あるいは出動の方法等についても、具体的に示していただきたいと思います。
 また、陸上自衛隊の現在の定員十七万九千人に対して、その充足率は八七%といわれておりますが、問題は、兵器に関しては定員数どおりに確保されているため、小銃で五万八千丁、短機関銃で四千四百丁、六〇ミリ迫撃砲で七百門、五七ミリ無反動砲三百五十門、七五ミリ無反動砲八十門が余っているといわれているのであります。このような余剰兵器がありながら、小銃等は毎年九千丁ずつが新規に調達されるという計画が四次防であります。小銃等の更新は、具体的にはどのように実施しているのか。また、使用されなくなった兵器及び余剰兵器はどのように処理されているのか。また、装備品の編成表の改正はどうなっているのか、それぞれ明らかにしていただきたいと思います。
 次には、兵器の国産化についてお尋ねいたします。
 四次防におきましては、その主要の一つは兵器の国産化であります。最近、防衛産業界や経団連の防衛生産委員会などにおいては、政府に対して兵器国産化の比率をもっと高めるべきであるとか、兵器の輸出を認めるべきであるとかとの要求が出ております。産軍複合の危険な芽が生まれつつあるといわねばならないのでありますが、政府は、これに対しどのようにお考えになっているか、お伺いいたします。
 また、武器輸出禁止法案をこの際成立させるべきではないでしょうか。いかがでしょう。さらに、小銃など輸出された軍事物資の状況を、ここ三年間、克明に報告をしていただきたい。
 米軍基地の返還が実施されているにもかかわらず、返還された米軍基地は、自衛隊による肩がわり使用がされている実態があります。先ほども質問にあったとおりであります。返還後の米軍基地は自衛隊が使用せず、住民の福祉に還元させるという大原則を明らかにすべきでありますが、政府は、この点どのように考えているのか。また、過去三年間に返還された米軍基地で、自衛隊が使用しているところの場所、面積、使用状況等についても具体的に説明いただきたいと思います。
 あわせて、私は、航空自衛隊の木更津飛行場にある約五十万平方米に及ぶ九ホールのゴルフ場について指摘したいと思います。なお私は、この問題を取り上げる前、長官のほうにこのことを事前に通告しておきました。いまここで問題になっている自衛隊が、たとえ米軍がつくったゴルフ場であるにせよ、五十万平方米、九ホールにも余るこのゴルフ場でゆうゆう自適のプレイを楽しむなんということは、それこそ、国民感情として絶対に許せないわけであります。私はいつもこのゴルフのことを言うのですが、私はゴルフも自分でやれるような身分になりたいし、また、やる機会をつくりたいと思いますが、貧乏ひまなしということでありまして、する機会がない。しかしながら、各省庁で国有地にゴルフ場を持って、そして一つの省庁がこのゴルフ場を管理しているという省庁があったら、総理大臣、お聞かせ願いたい。
 まず、いま問題になっている防衛庁だけじゃないでしょう。防衛庁が国有地のゴルフ場を管理しているなんということは、これこそたいへんな問題であります。私はいま申しましたように、この事実は事前に防衛庁長官のほうに言っておきました。これについての感想と、当然きびしい処置をすることは間違いないと思いますが、その処置についてもお聞かせ願いたいと思います。
 また、さきの日米安保条約運用協議会で大量の米軍基地の返還が決定されましたが、その後の在日米軍基地の整理統合の進捗状況を示してもらいたいと思います。なかんずく、関東計画、また、沖繩における遊休施設に対し返還期日が明確ではありませんので、具体的にその予定及び返還状況もあわせて明確にしていただきたい。
 具体的な問題としては、赤坂にあります山王ホテルの契約についてであります。東京地裁の判決で国側の敗訴が決定いたしました。明け渡すためには代替施設がない、こういうことでありますが、どのようにこれを解決するのかもお聞かせいただきたいと思います。
 次に、横須賀基地の第七艦隊母港化が進捗しているわけであります。先ほども若干質問がありましたが、その状況を御説明いただきたいと思います。なかんずく、一千万世帯にものぼるといわれている家族の移住状態はどうなっているのか。また、空母ミッドウェーは――申しわけありません。一千世帯でございます。たまには間違えることもあります。一千世帯にのぼるといわれている家族の移住状況はどうなっているのか。また、空母ミッドウェーの寄港はいつごろに予想されているのか、お教えいただきたいと思います。
 また、核兵器積載の有無についてであります。従来ならば、アメリカがノーと言うと、日本はオウム返しにノーと言う、こんな「脳」のない話はもうやめたらいいと思う。もうこの際、核に対する国民の疑惑を抜本的に晴らすためには、いままでの答弁あるいは政府の姿勢を改めるべきであると思いますが、この点について、政府の考えをお聞かせ願いたいと思います。
 さらに、先ほども触れられましたが、このまま進めば、エンタープライズの寄港という既成的な容認事実もつくるのではないかという危惧がありますが、この点の政府の見解もお聞かせ願いたいと思います。
 次に、自主防衛についてお聞きいたします。
 政府は、これまで機会あるごとに、自主防衛強化の必要性を訴えていますが、政府のいう自主防衛の強化とは、具体的に何をさすのか、説明していただきたい。また、政府の言い自主防衛の範囲は、戦闘爆撃機が入るのか。これまで、戦闘爆撃機は持たないという態度を明らかにしているが、これは将来とも不変なのかどうか。あらためて、この際答弁をいただきたいと思います。さらに、日本の周辺海域には、他国の原子力潜水艦がかなり潜行しているのでありますが、これに対応するため、わが国も原潜を持つべきだという考えが自衛隊の中にあると聞いておりますが、これは自主防衛の範囲に入るのかどうかも御答弁を願います。
 最後に、シビリアンコントロールの問題についてお尋ねいたします。
 いわゆるシビリアンコントロールについては、前佐藤内閣の時代にも問題とされたところであり、シビリアンコントロールの確立こそ急務であります。ところが、先月上旬、自衛隊制服組による政治的発言が防衛庁の認可のもとに公表されました。これは、昭和四十年の三矢研究事件と同様の性格を持つものであります。すなわち、制服組がわが国の防衛政策に触れ、その大きな転換を要求する発言を行なったことは、明らかに文民統制から逸脱した行為であり、制服組による政治介入のあらわれであると言わざるを得ません。このような制服組による政治介入問題について、どのような考えを持たれているのか、所信をお伺いしたいのであります。また、このような問題が繰り返し発生していることは、すでにシビリアンコントロールが形骸化していることを示していると思うのでありますが、いかがでありましょうか。
 さらに、政府は、昨年四月の四次防予算の先取り問題、沖繩への自衛隊物資の搬入の際、わが党をはじめとした野党側の追及により、文民統制の確立を国民に公約いたしました。ところが、一向にその実があがっていないのでありますが、政府は、文民統制の確立のため、どのような措置をとられ、またとられていこうとするのか、この際、あわせて明らかにしていただきたい。
 また、今回の制服組による政治的発言の中には過視できない問題を含んでいますので、一、二政府の見解を確認したいと思うのであります。
 まず、従来から政財界の一部で主張されておりますマラッカ海峡防衛論を肯定する、わが国周辺海域以遠の効果的な海上交通保護の必要性が強調されておりますが、この問題について、政府はどのように考えているか。
 また、武器輸出禁止三原則の再検討、さらに東南アジア諸国からの軍事的支援の取りつけ等についても述べられておりますが、これについても、政府はどのように考えているか。
 さらに、平和目的である海洋開発への自衛隊の参加についても発言されておりますが、あわせてこの問題についても、どう考えられているか、所見をお尋ねしたいと思います。
 従来から、わが党は、シビリアンコントロールの確立を確かなものとするため、衆参両院に安全保障常任委員会の設置を強く主張してまいりましたが、この際、安全保障常任委員会の国会設置について政府はどのように考えているかも御答弁いただきたいと思います。
 次に、長沼判決についてであります。私、委員会におきまして若干総理に質問しました。ここでは、その補足の質問の意味で、若干の質問をいたしたいと思います。
 四年数カ月もの長い年月にわたって争われてきた長沼ナイキ基地訴訟で、自衛隊違憲であるとの明確な断を下されたことは、実に意義深いものであることは言うまでもありません。憲法第九条の解釈を歪曲、拡大解釈してきた政府の従来の自衛隊合憲論が明確に違憲であるとの法的解釈により、いま自衛隊の存在自体が疑問視されているとき、四次防の遂行、そして防衛二法案を成立させようということは、今回の判決を無視した許しがたい暴挙であると思いますが、重ねて、再三再四、再五再六、この本会議場において総理の所見をお伺いしたいと思います。
 また、自衛隊を合憲とする学者は一二%ぐらいしかいないといわれております。第九条の条文を率直に読めば、自衛軍を持てるという解釈は絶対できません。さらに、憲法の条文に軍の編成や統帥に関する規定が全くないことから見ても、憲法自衛軍を想定していないことははっきりしているのでありますが、この点の総理の御見解はいかがでございましょうか。長沼判決により、安全保障政策をもう一回根本的に考え直す気はないか。これも私先般聞きましたが、もう一度御答弁をお願いしたいと思います。
 国会で安全保障論議が十分尽くされないために、司法で争わなければならないということになっております。国会の場に安全保障特別委員会を設け、国防論議を活発に行ない、そして、最終的には、国民にその方法は判断をゆだねることが大事であります。たとえ裁判所の判決が最終的にどうきまろうとも、この判決は尊重し、正面から政府がまじめに取り組み、国民の意見を反映する国会の場において十分審議を尽くすべきであると思うわけでありますが、いかがでしょう。
 さらに、自衛隊の公益性の問題であります。第三次防計画に基づいた航空自衛隊が装備するナイキ八一キュリーズの基地設置は、明らかに公益上に合致しないことであることは間違いありません。政府の「公益上」という根拠を伺いたいと思います。
 また、戦力にあらざる自衛力なんておかしいというのが一般庶民の常識であり、憲法を法律的に解釈すれば、違憲判決は当然の結果であります。しかし、政府は上訴の結果には楽観的であり、一般的にも上級審に行くほど政治裁判だと受け取られておりますが、総理は、高裁あるいは最高裁でこれは政府が絶対勝つんだと、こういう確たる自信があるかどうか、この際お伺いしておきます。また、あわせて、特に判決直後の関係閣僚及び党の要職にある者の談話等には、まことに無節操な発言が多く見られました。防衛庁長官の訓示にもその事実があったわけでありますが、これは、裏では司法を尊重すると言いながら、行政が司法に介入するという言語道断の態度であります。これらについて、総理は国民にどう釈明するのかも、あわせてお伺いいたします。
 今回の判決の結果、鎌倉市釧路市等では、同市に委託された自衛隊の募集業務を最終判決が出るまで停止する動きがあります。判決を尊重すれば当然の処置と思われますが、政府はこれにどう対処するおつもりなのですか。
 次に、保安林指定解除による洪水防止等の代替工事は、判決文の中に、「保安林の機能に代替する機能を果たすべき施設は不備である」と述べられておりますが、政府は、現地のその不備の疑問点について調査されましたか、あるいはどのような処置をとられましたか。あるいは一方的に、この判決文をそうじゃないと、こう否定するおつもりでしょうか。
 さらに、最後に、私が懸念している一つには、今後も行なわれる数多くの自衛隊に関する裁判があります。間もなく判決が予定されている百里基地裁判、小西裁判等がありますが、具体的にこの近況をお聞かせいただきたいとともに、これに対しての見通しについて、政府の考えをお聞かせいただきたいと思います。
 最後に、わが国の防衛と密接な関連を持つ国際情勢についてお伺いいたします。
 まず、北ベトナムとの国交樹立についてですが、このたび、日本とベトナム民主共和国との間に正式な外交関係が樹立されましたが、これはインドシナはもとより、アジアの平和前進に寄与するものであり、心から歓迎するものであります。また、これによって、インドシナ問題がより安定的な平和に向かうことを期待するものであります。ただ、今後の問題として、まずインドシナ和平の早期実現と、復興のための経済援助の強化でありますが、従来わが国は対米追随に堕し、アメリカのインドシナ戦略に加担してきたことは明白でありますが、まず、この従来の姿勢を十二分に反省することからインドネシアへの経済援助も始めなければならないと思いますが、これに対する反省の意思があるのかどうか、お伺いいたします。この反省の上に立って、ベトナム和平協定の完全実施のため、政府は全力をあげ、経済復興と発展に積極的に協力すべきであると思うのですが、いかがでしょうか。また、ベトナム民主共和国に対する援助の具体的構想も、あわせて示していただきたいと思います。
 また、在日米軍基地から南ベトナム向け武器補給が行なわれておりますが、北ベトナムと国交が樹立された現在、このようなことが行なわれていることは矛盾していると思いますが、今後の方針をお聞かせいただきたい。
 そもそも、このような矛盾が発生し、かつまた、今後の日本外交にとってマイナス要因となっているのは、結局、日米安保条約が存在するからであります。したがって、日米安保の長期堅持の姿勢は、この際再検討すべきであると思いますが、いかがでしょう。先ほど総理は、現時点においては、再検討の意思はないと、こうおっしゃっておりますが、しからば再検討をする、あるいは再検討を余儀なくされるであろうような国際的な情勢の変化、あるいは国内的な情勢の変化の要因とはどういうことであるかも、ひとつお聞かせいただきたい。これは事前に通告しておりません。ひとつ即答をお願いしたいと思います。
 また、現在、政府は、南ベトナム臨時革命政府との外交関係を拒否しているのであります。また、南ベトナム臨時革命政府との国交樹立については、ベトナム協定の趣旨からすれば当然のことではありますが、せめて百歩譲って、往来の自由だけでも早く認めてもいいのではないかと思いますが、いかがでしょう。
 次に、朝鮮問題に移ります。
 世界における分断国家のうちで、東ドイツ北ベトナムと国交樹立を行なった今日、残っているのは、朝鮮民主主義人民共和国ただ一つになっております。政府は、この朝鮮民主主義人民共和国との国交樹立について、どのような計画をお立てになっているのか、所信のほどをお聞かせいただきたいと思います。
 また、国連問題ですが、去る十八日より第二十八回国連総会が開催されました。この総会の最大の焦点は朝鮮問題であるといわれております。この総会の席上、大平外相は、南北朝鮮の国連同時加盟を主張するようでありますが、これは、わが国として南北平和統一をはばむことになるのではないでしょうか。この点、所信はいかがでしょう。
 さらに、南北両朝鮮の国連同時加盟は、朝鮮民主主義人民共和国が反対しているのであります。この事実を政府は一体どう受けとめて、そして同時加盟を主張しようというのでありましょうか。一方の国家が反対している事実を知りながら、なおも同時加盟を強要する政府の行為は、南北平和統一をはばむ行為と言わざるを得ないのであります。さらには、内政干渉にも通ずる行動であります。その上、なお悪いことには、南北同時加盟に対して、アメリカ、イギリスとともに共同提案を行なおうとしているようですが、一体政府は、南北朝鮮の平和的統一を心から願ってそのような行動をとっているのでしょうか、お伺いいたします。
 また、このたびの国連総会の焦点は、国連軍の撤退問題もその一つであります。現在二十五カ国が共同提案国となっている、中国、ソ連など北朝鮮支持派提案による国連軍撤退の決議案に対し、政府はどのように考えているのか質問したいと思います。
 この国連軍撤退決議案に対し、日米など韓国支持派の共同提案による事実上の現状維持決議案は、十三カ国が提案しているのみで、否決される可能性が大だといわれております。したがって、現状維持決議案が否決され、国連軍撤退決議案が採択されたとき、政府は国連の決定を尊重することは間違いないと思いますが、いかがでしょうか。
 次に、キッシンジャー構想として提案されている新大西洋憲章についてお尋ねいたします。
 この憲章は、軍事、経済両面にわたる米国主導の新世界秩序を形成するに際し、いわゆる世界政治秩序に衝撃を与えるまでになった新しい日本に対して責任分担を課そうというものであり、米国の利益のために、日本の利益をあるいは従属させようとする意図があるのではなかろうかという危惧があります。政府は、このような憲章に参加することをすでに決定しているのでしょうか、お尋ねいたします。あえてこの憲章に参加するならば、わが国は軍事及び経済の両面にわたって、日本が欧米の責任分担を肩がわりするようなことには決してならないようにしなければならないと思いますが、いかがでしょう。
 ところが、政府は、防衛問題については参加しない、と。元来、政治、経済と防衛とは密接な関係があるのであります。このため、この二者間の区分は非常に困難ではないかと、こう思います。政府が防衛に参加しないと断言するならば、その歯どめはどこに置くのか、具体的にお教えいただきたいと思います。
 最後に、間もなく総理が訪ソするわけであります。長年の懸案であった北方領土問題について、当然話し合うことになると思いますが、政府はどのような基本姿勢で臨もうとしているのか、お伺いしたい。ソ連の領土問題に対する姿勢に柔軟性が見られたという報告もありますが、国後、択捉、歯舞、色丹の四島を返還させるのだという姿勢には絶対変わりないというのかどうか、この際お聞かせいただきたいと思います。また、その際、この四島返還が平和条約締結の前提となるべきだと思いますが、総理の所信をお尋ねしたいと思います。
 また、これら四島のいわゆる北方領土については、返還後も日米安保に基づく米軍基地並びに自衛隊などの軍事基地は一切設置しない旨、この際明らかにして交渉に臨むべきであると思いますが、この点も所信をお聞かせいただきたいと思います。
 日ソ首脳会談においては、長年ソ連政府が言い続けてきた、いわゆるアジア集団安保構想がまたもう一つの議題になることも予想されますが、このアジア安保の内容については必ずしも明確なものはないわけでありますが、ソ連との交渉に臨む総理としては、基本的な考えがなくてはならないことは言うまでもありません。その基本的な考えをここに示していただきたいと思います。さらに、このアジア安保構想に対し・中国の参加が不可欠の条件であると思いますが、この点についての総理の見解を明確にしていただき、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
   〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
国務大臣田中角榮君) 黒柳明君にお答えをいたします。
 まず第一は、台湾、朝鮮地域において紛争が発生した場合、自衛隊の出動はあり得るのかという問題でございますが、わが国の自衛権の行使は、いわゆる自衛権発動の三条件、すなわち、わが国に対する武力攻撃が発生したこと、この場合に、これを排除するために他に適当な手段がないこと及び必要最小限度の実力行使にとどまるべきことをもって行なわなければならないことは、これまで政府の見解として申し上げてきたところでございます。したがいまして、台湾、朝鮮地域において紛争が発生したということで自衛隊が防衛出動をするということはあり得ないわけであります。
 朝鮮における日本の権益保護も兼ねて自衛隊の出動は可能かということでございますが、現行の自衛隊法上から、そのような派遣は認められておりません。
 次は、自衛隊法七十六条第三項についての御質問がございましたが、国会が不承認の決議をした場合には、国会の意思のとおり自衛隊を撤収すべきものと考えておるのでございます。
 抑止力について申し上げますと、「侵略に対する抑止力として有効な防衛力の整備」は、わが国の国防の基本方針を述べたものでございまして、現在の四次防も同一の基本方針を掲げて、必要最小限の自衛力を漸進的に整備しようといたしておるものでございます。なお、抑止力とは、一般的に言って、万一侵略が行なわれた場合、侵略者に手痛い打撃を与える力を持つことにより、侵略の意図を思いとどまらせるような防衛力のことでございます。今後の防衛計画についてどのような考えを持っているかという御指摘でございますが、四次防以後の防衛力整備をどのように行なうかについては、今後慎重に検討してまいりたいと、こう考えております。徴兵制についての御発言にお答えをいたしますが、しばしば政府が申し述べておりますとおり、半時においてはもちろんのこと、有事の場合でありましても、徴兵制度という限りは、憲法の許容するところではないと考えておるのでございます。
 産軍複合問題に対しての御発言がございましたが、わが国工業生産に占める防衛生産の比率は、間々申し上げておりますとおり、〇・四%と諸外国に比べて非常に小さいのでございます。その意味で、産軍複合といわれるような事態はないと考えておるのでございます。将来ともそのような弊害が生ずることのないよう、十分な配慮をしてまいりたいと考えます。
 武器輸出禁止法案を成立させるべきではないかという御指摘がございましたが、わが国からの武器の輸出によって国際紛争を助長することは、厳に避けなければならないことでございまして、政府は、従来から武器輸出三原則を設定するなど、きわめて慎重な態度をとってきておりますことは御承知のとおりでございまして、今後ともこの方針に変わりはございません。
 最近三年間の武器輸出の状況について述べよということでございますが、日本からの武器輸出は、昭和四十五年度七十万円、四十六年度一億三千万円、四十七年度は実績ゼロでございます。輸出されたものは、警察用あるいは護身用のものでございます。
 制服組がわが国の防衛政策に関する提案を行なっていることは、文民統制を逸脱するものではないかという御指摘でございますが、御指摘の件は、防衛研修所研究資料「ソ連海洋戦略のわが国防衛に及ぼす影響について」であると思われますが、本論文は、防衛研修所職員伊藤一等海佐の所内限りの研究報告でございまして、部外に公表したものでもございませんし、また、防衛研修所あるいは防衛庁の見解を示すものではないのであります。
 文民統制につきまして、いかなる措置をとったかということでございますが、昨年十月の九日、文民統制確立のための措置として、国防会議の議員を増加して、その運用に充実を加えることを定めましたほか、一定の防衛の装備等については、国防上の重要事項として国防会議にはかるべきことを決定いたしたわけでございます。また、特定の事項のためには、国防会議事務局に専門家の会議を設ける等の措置を講じております。
 安全保障常任委員会を国会に設置すべしというお考えでございますが、シビリアンコントロールの根源は国会にあると考えておりますので、国会に安全保障を所管する常任委員会が設けられ、広く安全保障の諸問題が論議されることが望ましいということは、間々申し上げておることでございまして、ぜひ設置をしていただきたいと、こういうことも考えておるわけでございます。
 長沼判決についての御質問でございますが、先ほども申し述べましたとおり、裁判所が政府の見解と異なる見解をとることがあっても、それは、三権分立のたてまえからいって当然あり得ることでございます。また、いわゆる審級制度をとるわが国の裁判制度のもとにおきましては、下級審の判決に不服があるときは、さらに上級審の判断を待つべきこともまた当然なのであります。今回の事件のように、重大な憲法解釈にかかる問題について、司法機関の最終決定を待たずに何らかの措置をとるというようなことは、むしろ、政府としてのその責任を全うするゆえんではありません。自衛力の整備は、わが国の平和と安全を維持し、国民の生命と財産を守るため、ゆるがせにできない事柄でございまして、政府としては、従来からの方針について何ら変更する考えはございません。
 憲法の条文に軍の編成や統帥に関する規定が全くないという御指摘でございます。政府といたしましては、憲法第九条は、わが国が主権国として持つ固有の自衛権まで否定したものではなく、したがって、この自衛権の行使を裏づける自衛のために必要最小限度の実力の保持を認めるものであると解しておるわけでございます。旧憲法にあったような、一連のいわゆる軍事規定が現憲法にないということと、自衛のための必要最小限度の実力の保持を憲法が認めていると解することとは、何ら矛盾するものではないと、こう考えております。
 長沼判決により安全保障政策を考え直すべしという御発言でございますが、今回の事件のように、重大な憲法解釈にかかる問題につきましては、司法機関の最終決定を待たずに、国の安全保障政策を再検討するようなことは、むしろ内閣としてその責めを全うするゆえんではありません。
 裁判所の最終判決がどうきまっても、これを尊重せよということでございますが、最終判決は、これを尊重することが当然であり、その結果を踏まえて、国会でも審議を尽くしていただきたいと存ずるものでございます。
 ベトナム和平協定の完全実施のため、政府は、その経済再建に積極的に協力をすべしという旨の御発言でございますが、政府としては、南ベトナム民族自決を確認したパリ協定の成立を歓迎しており、今後、対インドシナ外交を行なうにあたり、パリ協定の尊重が大前提であると考えておるのであります。わが国として、南ベトナムを含むインドシナ全域を対象に、戦災よりの復旧、民生安定、経済開発のために、できる限り協力をしてまいります。
 在日米軍基地から、南ベトナム向け武器補給が行なわれておるという旨の発言でございますが、わが国としては、米国が南ベトナム政府に対し武器等の補給を行なう場合には、損耗した武器等を国際監視のもとに、一対一のベースで補給することを認めているパリ協定に従って行なわれるものと考えており、この原則によって行なわれる限り、米国との安全保障条約上問題はないと考えておるのであります。
 次は、北ベトナムとの国交が樹立された現在、日米安全保障条約を堅持する姿勢を再検討せよという旨の御発言だったと思いますが、日米安保体制は、アジアにおける緊張緩和をもたらした基本的ワク組みの最も重要な柱であり、この柱が動揺することは、国際的不安定を助長することこそあれ、アジアの平和とわが国の安全に寄与する道ではありません。したがって、政府としては、軽々に安保体制を再検討するという考えは持っておらないのでございます。
 政府は、南ベトナム臨時革命政府との外交関係を拒否しておるという旨の御発言でございますが、政府は、ベトナム共和国政府を南ベトナムにおける唯一の合法政府として、これと外交関係を結んでおることは御承知のとおりでございます。いわゆる臨時革命政府支配地域の人々との交流につきましては、これまで同地域に対する復興援助の必要性、緊急性等を考慮して、ケース・バイ・ケースで検討いたしておりまして、今後とも、情勢の進展を踏まえ、適切に対処してまいる所存でございます。
 朝鮮民主主義人民共和国との国交樹立についての御発言でございますが、朝鮮民主主義人民共和国との国交樹立につきましては、南北対話の進展ぶり、南北両朝鮮と諸外国との関係等を総合して検討する必要がございます。現在のところ、具体的展望を持っておりません。
 北方領土問題についての姿勢、四島返還を日ソ平和条約の前提とすべしとの意味の御発言でございますが、わが国固有の領土である北方領土、すなわち歯舞、色丹、国後、択捉の返還を実現することによって、日ソ平和条約を締結するとの態度で臨みたいと考えております。過日、衆議院では決議をいただいておりますし、参議院の委員会におきましても御決議がございましたので、両院の御意思を十分体して折衝に当たりたいと、こう考えておるわけでございます。
 返還後の北方領土に米軍基地を設置しない旨と、アジア安全保障構想等に対するお考えがございましたが、これらは、まだ具体的な問題となっておりません。特に、アジア安全保障構想は全く内容が明確になっておりませんし、今後、内容を十分検討した上で慎重に対処しなければならない問題だと考えます。これらは日ソ首脳会議の段階において、隔意のない意見の交換を行ないたいという旨を考えておるわけでございます。
 まだたくさん御指摘がございましたが、残余の問題に対しては、関係閣僚から答弁をいたします。(拍手)