事態対処法

同じく既存の法律である「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)」を「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」として改正を行う。ここで国会だけでなく一部で国際的な問題となっている「存立危機事態」が定義されている。上の重要影響事態安全確保法と合わせると「存立危機事態」「重要影響事態」「武力攻撃予測事態」「武力攻撃事態」と四つの状況が定義されて非常に分かりにくい。特に「存立危機事態」は日本の国土へ武力攻撃の虞が無い状態で「我が国の存立が脅かされ」るということで定義が曖昧であるという批判が強い。

(目的)
第一条 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。以下同じ。)及び存立危機事態への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための態勢を整備し、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律に(第一号に掲げる用語にあっては、第四号及び第八号ハ(1)を除く。)おいて、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 一 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。
 二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。
 三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
 四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。
  指定行政機関 次に掲げる機関で政令で定めるものをいう。(略)
  指定地方行政機関 (略)
  指定公共機関 (略)
  対処措置 第九条第一項の対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が法律の規定に基づいて実施する次に掲げる措置をいう。
  イ 武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置
  (1) 武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動
  (2) (1)に掲げる自衛隊の行動及びアメリカ合衆国アメリカ合衆国の軍隊が実施する日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)に従って武力攻撃を排除するために必要な行動及びその他の外国の軍隊が実施する自衛隊と協力して武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置
  (3) (1)及び(2)に掲げるもののほか、外交上の措置その他の措置
  ロ 武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護するため、又は武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小となるようにするために武力攻撃事態等の推移に応じて実施する次に掲げる措置
  (1) 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、施設及び設備の応急の復旧その他の措置
  (2) 生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置
  ハ 存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置
  (1)我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの(以下「存立危機武力攻撃」という。)を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動
  (2) (1)に掲げる自衛隊の行動及び外国の軍隊が実施する自衛隊と協力して存立危機武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置
  (3) (1)及び(2)に掲げるもののほか、外交上の措置その他の措置
  ニ 存立危機武力攻撃による深刻かつ重大な影響から国民の生命、身体及び財産を保護するため、又は存立危機武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小となるようにするために存立危機事態の推移に応じて実施する公共的な施設の保安の確保、生活関連物資等の安定供給その他の措置

重要影響事態安全確保法

今回既存の法律である「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 (平成十一年五月二十八日法律第六十号)」を「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」と名前を変えて内容を改正する。
基本的には「周辺事態」を「我が国周辺の地域における」との但し書きを外して「重要影響事態」と置き換えるものとなっている。

(目的)
第一条 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態重要影響事態」という。)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

自衛隊法の改正 (3) -武器等の防護-

これまで自衛隊は自分の武器等について防護を行うために武器の使用ができることになっていた。しかしあくまでも自己保存のための武器使用であって正当防衛でない限りは相手を攻撃できないことになっている。今回の安保法制においてはその武器防護の延長上に他国の軍隊の武器等も防護できるという規定が設けられる。しかし武力行使が制限されているために防護というには矛盾した状況が発生しうる。武器等には船舶も含まれるので戦闘の行われていない地域であれば米艦を自衛隊護衛艦が警護することは今回の法制で認められることになる。(米艦が単独行動していて自衛隊が防護しないといけない状況自体が有り得ないという批判もあるが、それを別にして。)しかしもしその米艦に第三国の潜水艦から攻撃があっても自衛隊はそれに反撃はできない。反撃をすれば「武力行使の一体化」となってしまう。もし米艦と第三国で戦闘が始まれば、戦闘が行われている地域では自衛隊は活動ができず退避をしないといけない。このような状況でそもそも米艦を防護していると言えるのか、わざと戦闘に巻き込まれて正当防衛を口実にして既成事実を作るためではないのかと勘ぐるしかない法律である。

自衛隊武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条  自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料(以下「武器等」という。)を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
 
(合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条の二 自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(次項において「合衆国軍隊等」という。)の部隊であつて自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であつて、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。
 
自衛隊の施設の警護のための武器の使用)
第九十五条の 自衛官は、本邦内にある自衛隊の施設であつて、自衛隊武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料武器等を保管し、収容し若しくは整備するための施設設備、営舎又は港湾若しくは飛行場に係る施設設備が所在するものを職務上警護するに当たり、当該職務を遂行するため又は自己若しくは他人を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、当該施設内において、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

自衛隊法の改正 (2) -物品または役務の提供-

第百条の六には米軍への物品や役務の提供が規定されているがここも大きく書き換えられる。いろいろな変更が行われるが、一番大きなものは一番下の四項の提供できないものとして武器から弾薬が除外されたことである。国会での防衛大臣の答弁によれば弾薬は消耗品であって、銃弾や火薬だけでなく条約で禁止されている毒ガス弾や劣化ウラン弾、核弾頭も法理上は明示的には禁止されていないということになっている。

(合衆国軍隊に対する物品又は役務の提供)
第百条の六 防衛大臣又はその委任を受けた者は、次に掲げる合衆国軍隊(アメリカ合衆国の軍隊をいう。以下この条及び次条において同じ。)から要請があつた場合には、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、当該合衆国軍隊に対し、自衛隊に属する物品の提供を実施することができる。
 一 自衛隊との共同訓練を行う合衆国軍隊(周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律第三条第一項第一号 及び武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第二条第四号 に規定する合衆国軍隊を除く。第三号から第五号までにおいて同じ。)
自衛隊及び合衆国軍隊の双方の参加を得て行われる訓練に参加する合衆国軍隊(重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律第三条第一項第一号に規定する合衆国軍隊等に該当する合衆国軍隊、武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第二条第六号に規定する特定合衆国軍隊、同条第七号に規定する外国軍隊に該当する合衆国軍隊及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律第三条第一項第一号に規定する諸外国の軍隊等に該当する合衆国軍隊を除く。次号から第四号まで及び第六号から第十一号までにおいてじ。)
 二 部隊等が第八十一条の二第一項第二号に掲げる施設及び区域に係る同項の警護を行う場合において、当該部隊等と共に当該施設及び区域内に所在して当該施設及び区域の警護を行う合衆国軍隊
 自衛隊の部隊が第八十二条の二に規定する海賊対処行動を行う場合において、当該部隊と共に現場に所在して当該海賊対処行動と同種の活動を行う合衆国軍隊
 自衛隊の部隊が第八十二条の三第一項又は第三項の規定により弾道ミサイル等を破壊する措置をとるため必要な行動をとる場合において、当該部隊と共に現場に所在して当該行動と同種の活動を行う合衆国軍隊
  天災地変その他の災害に際して、政府の要請に基づき災害応急対策のための活動を行う合衆国軍隊であつて、第八十三条第二項又は第八十三条の三の規定により派遣された部隊等と共に現場に所在するもの
 自衛隊の部隊が第八十四条の二に規定する機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれらの処理を行う場合において、当該部隊と共に現場に所在してこれらの活動と同種の活動を行う合衆国軍
  部隊等が第八十四条の三第一項に規定する「外国における緊急事態に際して同項の保護措置を行う場合又は第八十四条の四第一項に規定する外国における緊急事態に際して同項の邦人の輸送を行う場合において、当該部隊等と共に現場に所在して当該保護措置又は当該輸送と同種の活動を行う合衆国軍隊
  部隊等が第八十四条の四八十四条の五第二項第三号に規定する国際緊急援助活動又は当該活動を行う人員若しくは当該活動に必要な物資の輸送を行う場合において、同一の災害に対処するために当該部隊等と共に現場に所在してこれらの活動と同種の活動を行う合衆国軍隊
 九 自衛隊の部隊が船舶又は航空機により外国の軍隊の動向に関する情報その他の我が国の防衛に資する情報の収集のための活動を行う場合において、当該部隊と共に現場に所在して当該活動と同種の活動を行う合衆国軍隊
  前各号に掲げるもののほか、訓練、連絡調整その他の日常的な活動のため、航空機、船舶又は車両により本邦内にある自衛隊の施設に到着して一時的に滞在する合衆国軍隊
 十一第一号から第九号までに掲げるもののほか、訓練、連絡調整その他の日常的な活動のため、航空機、船舶又は車両により合衆国軍隊の施設に到着して一時的に滞在する部隊等と共に現場に所在し、訓練、連絡調整その他の日常的な活動を行う合衆国軍隊
2 防衛大臣は、前項各号に掲げる合衆国軍隊から要請があつた場合には、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、防衛省の機関又は部隊等に、当該合衆国軍隊に対する役務の提供を行わせることができる。
3 前二項の規定による自衛隊に属する物品の提供及び防衛省の機関又は部隊等による役務の提供として行う業務は、次の各号に掲げる合衆国軍隊の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
 一  第一項第一号及び第五号、第十号及び第十一号に掲げる合衆国軍隊 補給、輸送、修理若しくは整備、医療、通信、空港若しくは港湾に関する業務、基地に関する業務、宿泊、保管、施設の利用又は訓練に関する業務(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む。)
 二  第一項第二号から第四号第九号までに掲げる合衆国軍隊 補給、輸送、修理若しくは整備、医療、通信、空港若しくは港湾に関する業務、基地に関する業務、宿泊、保管又は施設の利用(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む。)
4 第一項に規定する物品の提供には、武器(弾薬を含む。)の提供は含まないものとする。

安保法制の内容

提出された法案については内閣官房のページに示されている。

  • 平和安全法制整備法(我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律)
    1. 自衛隊法の改正
    2. 国際平和協力法の改正
    3. 周辺事態安全確保法を改正して重要影響事態安全確保法に変更
    4. 船舶検査活動法の改正
    5. 武力攻撃事態法を改正して事態対処法に変更する
    6. 米軍行動関連措置法を改正して米軍等行動関連措置法に変更
    7. 特定公共施設利用法の改正
    8. 海上輸送規制法の改正
    9. 捕虜取扱い法の関連
    10. 国家安全保障会議設置法の改正
  • 国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)

非常に多くの法律に亘るものであるがこれをまとめて一本の法案として出したことで政府側も混乱して充分な審議ができていない理由となっている。

北側三原則

法案を取りまとめるに当たって与党協議で公明党の北側副代表が提案した海外派遣の3原則はこのようになっている。

  1. 国際法上の正当性の確保
  2. 国民の理解と国会関与など民主的統制
  3. 自衛隊員の安全確保

同時に確認されたPKO参加5原則は

  1. 紛争当事者間の停戦合意の成立
  2. 紛争当事者のPKO派遣への同意
  3. PKOの中立性の確保
  4. 1〜3のいずれかが満たされない場合には、部隊を撤収
  5. 武器の使用は、要員の生命防護のための必要最小限度のものを基本

となっているが、一方で「任務遂行型の武器使用」(自己防衛を越えた武器使用)を認めるともなっている。

集団的自衛権を合憲とみなす政府側の論理

この法案で持ち出されている集団的自衛権は合憲であって解釈改憲ではないという政府側の論理はいろんな説明がされているが、最終的にはあまりにくだらない言葉遊びである。野党からの質問に対してたびたび用いられているのは昭和47年政府見解である。元々の文章で
下線を引いた部分を抜き出すと

あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。

となっているが、本来は

あくまで(我が国に対する)外国の武力攻撃によって

と読むべきところを

あくまで(我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する)外国の武力攻撃によって

と読み替えて「基本的論理は変わらない」と強弁しているだけである。例えば米国の艦船などに対する攻撃があって、日本の国民生活に危機がおよぶような場合は「日本国民」を守るために米国への援助などの「集団的自衛権」を行使できるという一種の詭弁である。本来は日本の国民生活に危機がおよぶ場合には現行の武力攻撃事態法で対処するべきであり、また公海上での米軍との共同行動よりは日本の国土を守ることを優先してまさに「専守防衛」を行うことが国民への利益となるはずである。
そもそも昭和47年見解はこの文書単独ではなくそれに先立つ昭和47年9月14日の参議院決算委員会での議論を踏まえて作成されたものである。

水口宏三君 その点は、私は納得できないんです。
 それじゃ防衛庁長官にお伺いしますけれども、防衛庁長官は、憲法上の問題として海外派兵はできないとおっしゃいましたね。しかし現在の憲法のどこにそういうことが書いてあるんですか。
国務大臣(増原恵吉君) この問題はひとつ法制局長官からお答えいたしたいと思います。
説明員(吉國一郎君) これは、憲法九条でなぜ日本が自衛権を認められているか、また、その自衛権を行使して自衛のために必要最小限度の行動をとることを許されているかということの説明として、これは前々から、私の三代前の佐藤長官時代から、佐藤、林、高辻と三代の長官時代ずうっと同じような説明をいたしておりますが、わが国の憲法第九条で、まさに国際紛争解決の手段として武力を行使することを放棄をいたしております。しかし、その規定があるということは、国家の固有の権利としての自衛権を否定したものでないということは、これは先般五月十日なり五月十八日の本院の委員会においても、水口委員もお認めいただいた概念だと思います。その自衛権があるということから、さらに進んで自衛のため必要な行動をとれるかどうかということになりますが、憲法の前文においてもそうでございますし、また、憲法の第十三条の規定を見ましても、日本国が、この国土が他国に侵略をせられまして国民が非常な苦しみにおちいるということを放置するというところまで憲法が命じておるものではない。第十二条からいたしましても、生命、自由及び幸福追求に関する国民の権利は立法、行政、司法その他の国政の上で最大の尊重を必要とすると書いてございますので、いよいよぎりぎりの最後のところでは、この国土がじゅうりんをせられて国民が苦しむ状態を容認するものではない。したがって、この国土が他国の武力によって侵されて国民が塗炭の苦しみにあえがなければならない。その直前の段階においては、自衛のため必要な行動はとれるんだというのが私どもの前々からの考え方でございます。その考え方から申しまして、憲法が容認するものは、その国土を守るための最小限度の行為だ。したがって、国土を守るというためには、集団的自衛の行動というふうなものは当然許しておるところではない。また、非常に緊密な関係にありましても、その他国が侵されている状態は、わが国の国民が苦しんでいるというところまではいかない。その非常に緊密な関係に、かりにある国があるといたしましても、その国の侵略が行なわれて、さらにわが国が侵されようという段階になって、侵略が発生いたしましたならば、やむを得ず自衛の行動をとるということが、憲法の容認するぎりぎりのところだという説明をいたしておるわけでございます。そういう意味で、集団的自衛の固有の権利はございましても、これは憲法上行使することは許されないということに相なると思います。
水口宏三君 いまの法制局長官の答弁、私最初に申し上げた憲法論と政策論がどうもごっちゃになっていると思うんですね。と申しますことは、憲法では何らその点については触れていないわけですよ。憲法第九条は戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認ですね。しかしこれに対して、従来の自民党だけでなしに、前の自由党もそうですけれども、自衛権を否定しているものではない。これは私たちもそう思います。自衛権の行使の形態としての武力の行使は、これを禁止しているというのが、われわれの解釈であり、それから政府なり、これまでの政府の解釈は、いや自衛権の行使の形態としての武力の行使は認めているんだと。ところがいまの外務省の条約局長の話を聞くと、集団的自衛権の行使は認めていないとおっしゃるけれども、いまの法制局長官の御説明の中で、憲法のどこにそれがあるか全然明確になっていませんよ。自衛権そのものすら不明確なんですね。自衛権そのものすら憲法では規定をしていない。自然権として認めているというあなた方の解釈です。また、われわれもそう解釈しております。むしろ自然権である自衛権そのものの行使の形態を否定したのが九条だと、そう解釈する以外に、法制局長官のおっしゃるように、集団的自衛権は行使できないんだというようなことは憲法上どこから出てくるんですか。
説明員(吉國一郎君) お答え申し上げる前に申し上げなきゃいけませんことは、自衛権というものは、確かに国際法上固有の権利として国連憲章第五十一条においても認めておるところでございます。自衛権というのはいわば一つの権利でございまして、その自衛権に、国連憲章で認められる前は個別的――インディビデュアルというような形容詞をつけないでザ・ライト・オブ・セルフディフェンス――自衛権ということで、いわば個別的自衛権と申しますか、最近、学者の用いますことばでは個別的自衛権というものを表現していたんだと思いますが、国連憲章になりまして、このインディビデュアルのあとにオアだったと思いますが、インディビデュアル・オア・コレクティブという形容詞がつきまして、個別的及び集団的の固有の自衛の権利というふうなことばづかいになったわけでございます。したがって――したがってと申しますか、自衛権というものはいわば一つの権利、所有権というような権利がございまして、その自衛権の発動の形態としてインディビデュアルに発動する場合とコレクティブに発動する場合とあるという観念じゃないかと思います。憲法第九条の説明のしかたとして自衛権自衛権と言っておりましたのは、いわば狭い意味のインディビルデュアル・セルフディフェンス・ライトというようなものを頭に置いて説明をしてきたわけでございまして、広い意味の自衛権という形になりましても、自衛権というものは一つで、その発動の形態がインディビデュアルかコレクティブだという説明をいたしますと、先ほど申し上げましたように、日本の憲法第九条では、先ほどおっしゃいましたように、国際紛争解決の手段としては武力の行使を放棄しております、自衛権があるかどうかということも問題だと仰せられましたが、その件につきましては、少なくとも最高裁の砂川判決において自衛権が承認をされております。その自衛権を持っているというところまでは最高裁の判決において支持をされておりますが、これから先が政府の見解と水口委員やなんかの仰せられますような考え方との分かれ道になると思います。先ほど私が申し上げましたのは、憲法前文なり、憲法第十二条の規定から考えまして、日本は自衛のため必要な最小限度の措置をとることは許されている。その最小限度の措置と申しますのは、説明のしかたとしては、わが国が他国の武力に侵されて、国民がその武力に圧倒されて苦しまなければならないというところまで命じておるものではない。国が、国土が侵略された場合には国土を守るため、国土、国民を防衛するために必要な措置をとることまでは認められるのだという説明のしかたをしております。その意味で、いわばインディビデュアル・セルフディフェンスの作用しか認められてないという説明のしかたでございます。仰せのとおり、憲法第九条に自衛権があるとも、あるいは集団的自衛権がないとも書いてございませんけれども、憲法第九条のよって来たるゆえんのところを考えまして、そういう説明をいたしますと、おのずからこの論理の帰結として、いわゆる集団的自衛の権利は行使できないということになるというのが私どもの考え方でございます。
水口宏三君 いまの長官のお答え、何かちょっと……、十二条、十三条とおっしゃいますが、十二条、十三条というのは関係ないんじゃないですか。――それはまあいいです。憲法をごらんになっていただくと十二条は自由及び権利の保持、濫用禁止、利用責任の問題である。十三条は個人の尊重の問題ですね。別に九条とは直接関係がないと思います。
 それはさておきまして、私はいままで、だからそういうことがあろうかと思ってずっと詰めてまいったのであって、まず第一に海外派兵の問題から入り、海外派兵はできないんだということは、これはまあ早急に具体的な態様を御検討願う、五十一条の集団的自衛権というものがまさに正当防衛の自然権であるということについて、これは法制局長官はお認めになったわけですね。正当防衛のこれは特殊な、つまり自衛権というものを個別的自衛権集団的自衛権に分けたのは行使の形態を分けたにすぎないのであって、本質は自衛権というものにあると思うんです。それは当然自然権として持っているものである、だからこそサンフランシスコ条約にも日ソ共同宣言にも、また日米安保条約の基本としてこれは据えられておるわけですね。その行使しないというのは、これは憲法論ではなくて政策論なんです。憲法にそんなことは全然書いてない。それはむしろ前文の思想をもし強調なさるならば、これはまさに、第九条というものは自衛権の行使の形態としての武力の行使を禁止したと見るのが常識ですよ。憲法前文に引っかけて、個別的自衛権は武力でもって行使できるが、集団的自衛権は武力で行使できない、自然権を制約するような、そういう規定がどこにあるのですか、前文に……。まして十二条、十三条は全然関係ないです。
説明員(吉國一郎君) 先ほど憲法十三条と申し上げましたが、その前に、前文の中に一つ、その前文の第二文と申しますか、第二段目でございますが、「日本国民は、恒久の平和を念願し、」云々ということがございます。それからその第一段に、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、」ということで、この憲法を制定いたしまして、さらに憲法第九条の規定を設けたわけでございます。その平和主義の精神というものが憲法の第一原理だということは、これはもうあらゆる学者のみんな一致して主張することでございます。そして「日本国民は、恒久の平和を念願し、」のあとのほうに、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」ということで、平和主義をうたっておりますけれども、平和主義をうたいまして、武力による侵略のおそれのないような平和社会、平和的な国際社会ということを念願しておりますけれども、現実の姿においては、残念ながら全くの平和が実現しているということは言えないわけでございます。で、その場合に、外国による侵略に対して、日本は全く国を守る権利を憲法が放棄したものであるかどうかということが問題になると思います。そこで国を守る権利と申しますか、自衛権は、砂川事件に関する最高裁判決でも、自衛権のあることについては承認をされた。さらに進んで憲法は――十三条を引用いたしましたのは、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」ということで、個人の生命、自由及び幸福追求の権利を非常に重大な価値のあるものとして、第十三条は保障しようとしているわけでございます。そういうことから申しますと、外国の侵略に対して平和的手段、と申せば外交の手段によると思いますが、外交の手段で外国の侵略を防ぐということについて万全の努力をいたすべきことは当然でございます。しかし、それによっても外国の侵略が防げないこともあるかもしれない。これは現実の国際社会の姿ではないかということになるかと思いますが、その防げなかった侵略が現実に起こった場合に、これは平和的手段では防げない、その場合に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が根底からくつがえされるおそれがある。その場合に、自衛のため必要な措置をとることを憲法が禁じているものではない、というのが憲法第九条に対する私どものいままでの解釈の論理の根底でございます。その論理から申しまして、集団的自衛の権利ということばを用いるまでもなく、他国が――日本とは別なほかの国が侵略されているということは、まだわが国民が、わが国民のその幸福追求の権利なり生命なり自由なりが侵されている状態ではないということで、まだ日本が自衛の措置をとる段階ではない。日本が侵略をされて、侵略行為が発生して、そこで初めてその自衛の措置が発動するのだ、という説明からそうなったわけでございます。
水口宏三君 それは後半は政策論ではないですか。憲法上ですね、そういうことを明確に規定している条文はどこかということを私は伺っているのです。むしろこれには二つの根拠があって、国連憲章五十一条から出てくる自然権、正当防衛の自然権としての集団的自衛権という概念と、それから日本国憲法第九条から出てくる、あなた方のおっしゃる自衛権という概念と、その概念があいまいだから、常に政策論でもってそこをつながなければならなくなるわけですね。たとえば先ほどのお話の、明らかに日本に向かって艦隊が攻めてくる場合には当然これを迎撃する。だからこれはもう集団的自衛権というものとまさに密接な関係――その国が侵されることは日本の安全が脅かされるという、つまり日本の安全が脅かされるというのは、まさに日本国民の生命、財産が脅かされるということですよ。そうでしょう、長官、日本の安全が脅かされるということは。そういう場合にのみ正当防衛権的な自然権として集団的自衛権を認めているのであって、それを何か個別的自衛権集団的自衛権とは全く別な概念であって、それを何か政策的につないで十三条を間に入れるなんというのはこっけいですよ、それは。法律論じゃないですよ、それは。明確にしてください、そこのところ。
説明員(吉國一郎君) 政策論として申し上げているわけではなくて、第九条の解釈として自衛のため必要な措置をとり得るという説明のしかた――先ほど何回も申し上げましたが、その論理では、わが国の国土が侵されて、その結果国民の生命、自由及び幸福追求に関する権利が侵されるということがないようにする、そのないようにするというのは非常に手前の段階で、昔の自衛権なり生命線なんていう説明は、そういう説明でございましたけれども、いまの憲法で考えられておりますような自衛というのは最小限度の問題でございまして、いよいよ日本が侵されるという段階になって初めて自衛のための自衛権が発動できるという、自衛のための措置がとり得るということでございますので、かりにわが国と緊密な関係にある国があったとして、その国が侵略をされたとしても、まだわが国に対する侵略は生じていない、わが国に対する侵略が発生して初めて自衛のための措置をとり得るのだということからいたしまして、集団的自衛のための行動はとれないと、これは私ども政治論として申し上げているわけでなくて、憲法第九条の法律的な憲法的な解釈として考えておるわけでございます。
水口宏三君 納得できませんね。わが国と密接な関係にあるということは、たとえばアメリカと非常に密接な関係がありますね。じゃアメリカがどこかの国から攻撃されたからといって、直ちにわが国の安全は脅かされません。そうでしょう。だから最初に、私はむしろ集団的自衛権というのは正当防衛権的な自然権であるということを長官お認めになっているわけですよ。だから密接であるということは、単なる政治的な密接さとか、あるいは経済的な密接さではなしに、まさにその国が脅かされるということが、わが国の安全、すなわちわが国民の生命、財産を脅かされるということであって、そのときに初めて集団的自衛権というものが発動できるからこそ、正当防衛権的な自然権ということが言えるんじゃないですか。そこを何かあいまいに密接な密接なとおっしゃるけれども、わが国の国民の生命、財産が脅かされるまではと言うけれども、一方、久保防衛局長に聞けば、明らかにわが国を攻撃するという艦隊に対しては、その艦隊に向かって攻撃することは当然の防衛行動であると、こういうお話があるから、どうしてそこが結びつくのですか。だから法制局長官は密接なということばでごまかしている。密接なというのは政治的に密接である、経済的に密接であるという意味じゃないですよ。まさにわが国民の生命、財産に影響を与えるか与えないかということは、これは正当防衛権的な自然権として成立するかしないかのけじめじゃないですか。
説明員(吉國一郎君) 私が密接と申し上げました、密接ということばを使って申し上げたつもりでございますのは、たとえわが国と非常に密接な関係がある国があったとしても、その国に対する攻撃があったからといって、日本の自衛権を発動することはできないという意味で、密接のことばを使ったわけでございまして、いま水口委員の仰せられますように、わが国と安全保障上と申しますか、国家の防衛上緊密な関係にあるその国が攻められることは、日本の国が攻められると同じだというような意味の考え方はしておりません。
水口宏三君 そうすると、集団的自衛権というのは拡大されるわけですか。私はむしろ、先ほど申し上げた憲法調査会論議を見ても、正当防衛の自然権として、これを一応国際的にも、また憲法調査会の中での論議でもそれを大体認めているわけですね。正当防衛の自然権というものは集団的自衛権に該当し得るということは、これは明らかにわが国民の生命、財産、こういうものが脅かされるという前提でなければ、これは私は発動できないだろうと思うのです。ただ密接さということばにはいろいろな密接さがあると思う。そうでなくて、この場合は、まさにAという国が攻撃されることがわが国の国民の生命、財産を脅かされるというところにあるのじゃないですか。それを、あなたさらに拡大して、そういう意味で言ったのじゃないのだというふうになってきたら、どことでも軍事同盟を結んで戦争できるじゃないですか。
説明員(吉國一郎君) 国際法上の観念としての集団的自衛権、集団的自衛のための行動というようなものの説明として、A国とB国との関係が一定の緊密な関係にあって、そのA国とB国が共同防衛のための取りきめをして、そうしてA国なりB国なりが攻められた場合に、今度は逆にB国なりA国なりが自国が攻撃されたと同様として武力を行使する、その侵略に対して。そういう説明は、国際法上の問題としてはいま水口委員の仰せられましたとおりだろうと思います。ただ日本は、わが国は憲法第九条の戦争放棄の規定によって、他国の防衛までをやるということは、どうしても憲法九条をいかに読んでも読み切れないということ、平たく申せばそういうことだろうと思います。憲法九条は戦争放棄の規定ではございますけれども、その規定から言って、先ほど来何回も同じような答弁を繰り返して恐縮でございますけれども、わが国が侵略をされてわが国民の生命、自由及び幸福追求の権利が侵されるというときに、この自国を防衛するために必要な措置をとるというのは、憲法九条でかろうじて認められる自衛のための行動だということでございまして、他国の侵略を自国に対する侵略と同じように考えて、それに対して、その他国が侵略されたのに対して、その侵略を排除するための措置をとるというところは、憲法第九条では容認してはおらないという考え方でございます。

ということで「集団的自衛権」は行使できないという明確な答弁が行われている。しかし政府側は昭和47年当時の「集団的自衛権」はあくまで一般的なもので(最近は「フルスペック」という珍妙な言葉を使っている)あって安保法制でいう「限定的な集団的自衛権」なものはあくまで「自衛」のための「集団的自衛権」であり合憲だという詭弁を使っている。
そもそも「個別的自衛権」についても日本国憲法ではかなり抑制されたものであるがそれを「限定的な自衛権」と呼んでいないのに、本来は自衛権とは質の異なる「集団的自衛権」を「限定的」とすること自体が本質を隠していると言わざるをえない。